縦書き
1

風が砂塵を巻き上げる。



形を成すことすら許されない、廃れた地。殺された、街。



足下に視点を移すと僅かに形を留めている、乾涸びた死体。



己の膝を受け止めた砂が音を吸収する。



手に乗せた筈の小さな死体は、両の手のひらの上で形を留めることなく風に浚われてゆく。



無意識に握り締めた中に形は残らず、ただ、砂だけが残っていた。



理不尽に思える所業。



誰に、何にこんな権利があるのだろう。



何の謂れもない人を、物を、生命を奪っていいものなど、いない筈だ。



睨みつけるように見つめる先には、ただただ砂が続くばかり。



視界の端にすら、形を留めたものが見当たらない。



手に力がこもる。



知らずの内に強く握り締め、胸元に抱き込むようにしていた。



後の気配は、変わることなく控えている。



「次の地は?」



振り返ることなく訊ねる。



そうすれば、静かに変わる気配。



少し振り返り見やるとただ黙って北の方角を指し示していた。



その先が、向かうべき地。



立ち上がり、握り締めていた手を下ろすと、僅かに残っていた砂さえも落ちて判別が付かなくなった。



それに構いなどしない。



「行くぞ」



指し示された方向に向かって歩き出す。意見を聞かずとも、そして待たなくとも無言で付き従う気配。



口元に指を宛て、甲高い音を鳴らす。暫くもないうちに何処からともなく飛竜が舞い戻ってくる。



それが目の前に降りると同時に舞い上がる砂塵に構わず、飛竜に跨り手綱を取る。



慣れた動作ですぐさま空に飛び上がった。







飛竜はその翼を広げ、その背に主を乗せて飛び上がる。



嵐に近い風が起こり、その辺り一帯の砂を巻き上げた。



飛竜はただまっすぐに、北に向かって消えていった。