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「この方のお世話を?」
ある日、いつものようにカミシュの下を訪れると、見た事のない少女がカミシュの隣にいた。
その瞳は吸い込まれそうな藍色で、少し長めのエメラルドグリーンの前髪の奥からじっとリーの事を見ていた。
「そ、こっちで暮らしたいって聞かなくてねー…。僕はそろそろ上に戻らないといけないし、一人でこっちに置いてくのは不安だし。リーなら任せられるかなって」
カミシュが仕方ない、といった様子で肩を竦ませる。よく見ると、小屋の中もいつもより少し整理されているように感じる。カミシュがよく使っていた食器や、彼の服が消えていた。
ダメ?と覗うように顔を覗き込まれる。咄嗟に首を左右に振った。彼に頼まれて断ることなどリーにできるはずもない。「喜んで」と微笑むと、カミシュが安心したような、ほっとした表情になる。その表情だけで、リーは満足だった。
そっと少女の前に立ち、視線を合わせるために跪く。少女が気まずそうに視線を彷徨わせた。見上げたカミシュがにっこりと頷くと、まだ少し困ったような顔でリーへと顔を向けた。
「初めまして、サニュイ・リニカと申します。今後、こちらの世界で貴女のお世話をさせていただきます」
サーニャでもリーでも、好きにお呼びください、と微笑むとようやくおずおずと言った様子でリーと視線を合わせた。
「……シュリマです」
この日から、リーとシュリマの暮らしが始まった。
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