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始まりの詩 - 後編 - 予感

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「そういえば」
 ようやく事がついた後、ふと思い出したようにリニカが声を上げた。少年だけでなく、頭上からも多くの視線が再び注がれる。
「その寿命を奪われた龍はどのような方なのですか?万一探してこられた時の事を考えると、できれば特徴だけでも教えていただきたいのですが…」
 突如襲われるなどということは考えにくいが、特徴さえ掴めればその龍を避けるということもできるかもしれない。いくら他の龍が手助けをしてくれるといっても、あまり龍に迷惑をかけたくないのも本音だった。
「ああ、そうだね、知っておいて損はない。奴は龍の姿としては基本的に淡い緑色の肌をした地龍だ。眼は…確か金だったかな。…人の姿は覚えているか?」
「ええ、背丈としては人に比べれば高いですね。サニュイ=リニカ殿より頭2つ分ほどでしょうか。髪は黄緑で眼はやはり金ですね」
 少年の言葉を受けてリニカに寿命を授けた龍が続ける。リニカは告げられた特徴をしっかりと頭の中に刻み込んでいた。
「遠巻きにでも見ていくといい。先までここにいたからそう遠くには行ってないはずだ。」
 その言葉にえ、顔を上げる。一瞬光に包まれる前に見えた後姿が頭の中を過ぎる。背が高くて翠の髪。更に「地龍」であるその人物。
 まさか、と思う。そもそももう長い事声も交わしていないし姿も見ていない。見間違いの可能性のほうが高い。そもそも彼は自由奔放だったが傲慢ではなかったはず。けれど頭を過ぎったその姿を消すことはできなかった。


 その場にいる龍に断りを入れてその場を退席する。入室時に一緒に入ってきた群青色の髪の龍が退室するのも手伝ってくれた。後ろで扉が閉まる音が聞こえると、そこにはもう、少年も、人とほぼ同じ大きさの龍もいなかった。肩に手を乗せていた龍が「たぶんここまっすぐ行くとどこかにいるわよ」と教えてくれた。それに礼を行って指し示された先へ向かう。焦っているのは気付かれなかっただろうか?不審に思われてなければいい。寿命を受け取ったからか、どこに壁があるのか、なんとなくわかった。長い廊下のような道をひたすらに進む。早足がいつの間にか小走りになっていた。知らず息が上がる。先には閉じられた扉が見える。あの龍が教えてくれたのはこの先のことであろうか。一度息を呑むと、辿り着いたその扉に手をかけた。
 
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