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(ここは…何処だ……?)
気がつくと、地の底のように暗い場所にその人物はいた。瞼を上げ、辺りを見回すが、見えるものなど何もなく、自分が本当に眼を開けているのかすらわからなくなってゆく。上半身を起こそうと腕に力を篭めるが、それさえも何か別の力に遮られて叶わなかった。起き上がることは早々に諦めて、体を横にしたまま左手を己の顔に当てる。身体を起こそうとさえしなければ、自由に動けるらしい。
(何かに、呼ばれた気がしたんだが……)
そうは思ったが、その何かが何なのか、動物なのか人間なのかさえわからない。それどころか、本当に呼ばれたのかと自問すれば、それすらも疑わしく思えてくる。しかしその人物は、早々に考えることを放棄し、力なく再び瞳を閉じ、混濁とした世界に意識を落としていった。
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