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Land Traveler - 第6章 - 3話

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  ファルトと共にウィズデリアに残った筈のレイラがヘラザードの城に現れたのは、エリス達から半日ほど遅れた夕方の事だった。王への報告を終えたエリスが招かれた夕食の場に、気を失ったヴォルドヴェラを連れて、彼女は突然現れた。騒然とする周囲の大臣たちや、慌てて自らを取り囲む兵すら目もくれず、彼女はまっすぐに王の許へ歩み寄ると、人払いを願い出た。そうした後で上で自分が何者であるか、そして連れてきた人物が誰であるかを手短に話したのだった。

「…して、ファルトは?」
 騒めく周りの者とは対照的に、フロベール王は冷静だった。彼女に向けられた剣を収めさせ、彼女の言葉通り重鎮十数名を残して人払いを済ますと、レイラの説明にじっと耳を傾ける。一通り彼女が話し終えると、一度ヴォルドヴェラを見、共にいるべきはずの息子の所存を彼女に確認する。
「怪我はされておりますが、ご無事でいらっしゃいます。痣を封印した後、すぐに彼を陛下の許へとお連れするよう託けを受け、失礼ながら私だけ先に転移魔法にて参上させていただいた次第でございます。ご子息も多少お時間はかかるでしょうが後日参られるかと」
 確かにレイラに連れられてきたヴォルドヴェラの左手の甲に痣は見られなかった。どういうことだと詰め寄る魔法使いに、本来身体に宿っている魂と異端児のそれが別物であり、本来の魂が異端児のものに抑圧されて出てこれなくなっていたこと、そして今回、その異端児の魂だけを身体から引き剥がし封印したと伝えると、大きなどよめきが起こった。その中にはそんなことができるはずがないという者や、更にはそもそも彼が本当にヴォルドヴェラなのか、レイラが嘘を吐いているのではと疑う者さえもいた。一層騒がしくなる室内。それをフロベール王が上げた片手一つで制する。逆の手を口許にあてたまま、しばし考え込むように押し黙った。ざわめきが治まった一同が王の様子を、固唾を呑んで見守っている。



「タランド」


 バッと音がしそうなほど一斉に二十いくつかの瞳が宰相のタランドへ向く。皆の視線を一身に受け止めたタランドがゆっくりと一歩前に出て頭を垂れ、王の言葉を待つ。タランドを見、次に視線がゆっくりとヴォルドヴェラに向けられる。
「『彼』に部屋の用意と、すぐに治療を」
 その言葉に、先ほどよりも一層室内が騒がしくなった。
 「陛下!」と叫ぶ声が聞こえる中、タランドは深く一礼をし、受けた命に従うべくレイラからヴォルドヴェラを引き取り、退出していった。命令の撤回を求める声が響く中、胸をほっと撫で下ろすレイラの姿が、エリスには強く心に残っていた。

「レイラ殿、と申したか、我が愚息の為に遥か東の果てから我が国まで、ご足労感謝申し上げる。今、席を用意させるので是非ご一緒に食事を」
「ありがたいお言葉ですが、我が主の許へ戻らねばなりませぬ故、レオマイル様の様子を見、エリス様に少々お時間をいただきそれで失礼させていただきます」
 改めて向き直った王の定説の誘いを断ると、レイラは未だに落ち着きを失ったままの室内から颯爽と退室した。

 その後食事を済ませたエリスの部屋に現れたレイラは、戦いの顛末や見てきたレオマイルの状態を話した後、言葉通り主であるルティアの待つ森へと帰っていった。

 その後もレオマイルの治療のために何度か城へ来ていたが、彼が目覚め起き上がれるようになったのを確認した後、「また森へ遊びに来てください」との言葉を残して去っていった。人の世界にあまり干渉してはならないという決まりがあるとかで、それから後一度とて会っていない。



「転移魔法を使って帰っていったし、今頃大精霊殿とお茶してるんじゃない?」

 言ってその様子を思い浮かべたのか、レオマイルは少し目を細めて微笑んだ。エリスも同じように、かつて訪れた森へと思いを馳せる。精霊に守られた、日の光が暖かく降り注ぐ肥沃な森だった。いつかまたあの森へ行き、彼女とその仲間たちに会うことはできるのであろうか。

「また、レイラ様にお会いしたいですね…」
「ファルトに言えばいいさ。連れて行ってくれるよ」

 特に返事を求めた言葉ではなかった。ただ、いつ来ると知れない再会の時を思って溢れただけだった。何気ない言葉を拾った意外な返答に、エリスはハッとレオマイルを見た。それに気付いたのか、窓の外を見つめていたレオマイルがゆっくりと視線を戻す。その全てを知っているかのような瞳の色にエリスは息を呑んだ。

「…行くのか?」
 どこに、とは聞かれなかった。それでも、彼が言いたいことがエリスにはわかった。彼にしては珍しい色を湛えた真紅の瞳をしっかりと見つめ返し、頷く。
「はい」
 こうしてレオマイルが動けるようになった今、エリスが城を去るのは時間の問題だった。レオマイルが完治するのを見届けるまで待ちたいのは山々だが、何もできないエリスがそこまでこの城で厄介になるわけにはいかない。ちょうど去り時を探っている最中だった。
 



精霊は昔なんかあったとかで基本的に人間の世界に自ら首を突っ込みません。 今回レイラが旅に同行したのは実は特殊なパターンでした。 あ、でも人間側から要請がある場合は内容にもよりますが応じてくれたりもします
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