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Land Traveler - 第3章 - 6話

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 翌朝、ルティアと顔を合わせた広場で昨日と同じように三人は彼女と向かい合っていた。挨拶をして去ろうとする三人にルティアがファルトの目の前に小さな光の玉を差し出す。
「これは……?」
 ファルトが受け取ったそれを覗き込こむようにして、アクエリアが不思議そうに首を傾げる。その光の玉は淡いオレンジ色の光を帯びていた。
「精霊にレイラです」
 ルティアの言葉を受けて、ファルトの手から離れた光の玉が、くるり、と回ったかと思うと二、三十cmほどの人の形なった。光の玉ーーーレイラは軽く頭を下げて会釈をする。
「レイラと申します。お見知り置きを」
 顔を上げてにっこりと微笑む。結んでない栗色の髪が揺れた。視界に入ったそれを慣れた様子で後ろへやる。
「すまないな」
 驚いて言葉も発せないアクエリアを尻目に、ファルトが礼を告げる。ルティアはどうということはないと言うように小さく首を振った。
「いえ、お役に立てれば何よりです。お気をつけて下さい」
 その言葉に小さく頷くと背を向けファルトは森の出口へと歩き出した。それを受けてレイラがルティアと顔を合わせ、「それでは行ってまいります」と挨拶を交わす。そしてくるりと光の玉に姿を変えると、ファルトに付き従うように彼の肩の辺りに留まった。彼に続こうと歩みを進めたアクエリアだったが、隣にいるレオマイルが彼らとは反対に足を進めたことに気づき、何事かと振り返った。ルティアの目の前まで進んだレオマイルは胸を手で押さえ、辛そうに顔を歪めた。
「あなたの元を去らねばならないこの運命<<さだめ>>が酷く憎らしい。どうか、この薄情な私をお許し下さい。そして忘れずにいてください」
 突如それまでの雰囲気をぶち壊すような彼の言葉に、ファルトは心底呆れたように溜め息を吐く。そして何事もなかったかのように再び森の出口へと歩み出した。一方アクエリアはどうするべきかわからず、困ったように二人を見比べる。立ち往生している彼女にファルトが声をかける。
「アクエリア、放っておけ」
 そのまま再び歩き出す彼は、もう後ろの様子を気に留めることはなさそうだった。レオマイルを気にしつつも、彼女はファルトの後ろ姿を追うことにした。



 二人の姿が見えなくなると、ルティアは微笑みを携えたまま改めてレオマイルに向き合い、口を開いた。
「ファルト様をよろしくお願いします、レオマイル様」
 その言葉にレオマイルの口元がニヤリ、と歪む。わずかに屈んでいた姿勢を正す。
「やはり、お気づきでしたか」
 ルティアの表情は変わらない。ただ、その言葉に頷くだけだ。レオマイルが照れ臭そうに頭を掻いた。
「お二方のことは幼少の頃から陰ながら拝見させて頂いております。貴方様がどれほどファルと様のことを気にかけていらっしゃるか存じ上げているつもりです」
 余計に恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる彼を何も言わずに見つめる。さながらその様子は彼の母親のようであった。
「まぁ…何をしですかわからないんでね」
 仕方なくだとでもいうような口調で鼻を擦りながら言う。ルティアもその言葉に同意を示した。事実、ファルトは一度自分で決めたことを貫く人間だった。一見すると素晴らしい人物に思えるが、彼の場合その結果自分が大怪我をしても、ひいては身を滅ぼす事になっても貫き通そうとする。その為、本人はともかく、周りの者は酷くヤキモキさせられるのであった。
「さぁ、そろそろ追いかけなければ。本当に置いていかれてしまいますわ」
 思い出したようにクスクスと笑いながら言われる。後ろを振り向き、耳を澄ませてみても二人の姿も、足音も彼には届いてこなかった。それに気付いてレオマイルの「本当だ」と口からも笑みが漏れた。
「それでは、私も失礼します」
「御武運を」
 深々と礼をしたレオマイルにルティアも倣う。互いに顔を上げ、しっかりと顔を見合わせた後サッと踵を返し、レオマイルがファルト達の方へ駆け出して行った。
 ルティアはその姿が見えなくなるまで、祈るようにじっと見送っていた。


「随分と話し込んでいらっしゃったのですね」
 レオマイルは二人が飛竜で飛び立つ前に辿り着くことができた。森を発ち空を飛んでる時、アクエリアにそう声をかけられた。初めて会話を交わすアクエリアの、エリスとは若干異なる口調に少し戸惑いを覚えたが、レオマイルは進む先に視線を向けたままフ、と口元に笑みを浮かべた。
「そりゃ、大精霊ともなると、ね」
「はぁ…?」
 アクエリアのよくわからない、というような視線を受け流し、彼はただまっすぐ前を見つめるだけだった。



前々回に引き続き、もう一人登場しました。 精霊のレイラちゃんです。 これで旅の一行が揃ったよ!!
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