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Land Traveler - 第5章 - 7話

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 ミレディアの悲痛な叫び声がフロアに木霊した。炎は容赦なく勢いを増し、しばらくの後に自然に消滅していった。残ったのはあまりにも無残なミレディアの姿のみ。その動かなくなった姿を確認すると、いつの間にかミレディアよりも後方に移っていたレオマイルが静かにライへと近付く。
「誰が、終わりだって?」
 先程のライ以上に勝ち誇ったような、それ以上に不敵な笑みを浮かべる。ライからギリ、と奥歯を噛み締める音がした。その瞳は今までになかった怒りと憎悪で満ちていた。
「き…さっまぁぁぁぁ!!!」
 怒りに任せて魔法を創り放つ。同時にその手に剣を召喚し、ライ自身もレオマイルへと向かっていく。レオマイルが眼前に迫る魔法を鋒で逸らすと触れた地面が爆音と共に弾け抉れた。レオマイルの意識がそれに反れてる隙に近付いたライが剣を振り下ろす。目の端に走った光に反射的に剣を向ける。ガキィッと重い音がしてレオマイルの剣がライのそれを受け止めた。ライが憎々しげに顔を歪めて舌を打つ音が否が応でも耳に届く。そのまま力くらべとなり、お互いの剣が受けた力の強さでガタガタと震える。
 ふとレオマイルがライに向けていた視線に不躾な色が混じった。レオマイルを睨んでいたライがそれを受けて訝しげに眉間にシワを寄せる。
「お前、あのミレディアとかいう子、好きだったろ?」
 ライからの胡乱気な視線すらも愉快だというように話しかける。ライの瞳がカッと見開かれる。同時に剣を手にしていない左手に強い力が宿った。咄嗟に後方に下がったレオマイルの眼前すれすれを強力な雷が走り抜けていった思わずかいた冷や汗をヒュウと口笛を吹くことで誤魔化す。体勢を整えライを見据えると彼も後方に下がっており、一つ、長く息を吐いたところだった。
 思ったほど挑発に乗ってこなかったな、と内心詰まらなく思う。四天王と言うからには幹部クラスで戦闘もあまりしないのかと思っていたがそうでないようだ。心理戦は通用しそうにない。無駄に煽っても効果がないなら話しかける意味もないか、と考えたところでライの視線が鋭さを増したことに気付き、咄嗟に動く。
 駆け出したのはほぼ同時だったらしい。二人が離れていた距離の中央近くで再び剣がぶつかる。ライは魔法を使う気がないのか、両手は剣に当てがわれ、呪文が紡ぎ出される気配もない。
(魔法にまで気が回らないほど逆上してる、ってわけじゃなさそうだな)
 剣を受けながらも冷静にライの様子を観察する。睨みつけるその瞳は確かに憎しみも含まれているがその一色で染まり切っているわけではない。むしろ凪いだような静けさがある。


(チャンスは、あるとすれば一回。…それを逃せば、死ぬ)
 やはり相当な場数をこなしてるようで、ライの攻撃には隙がない。絶えず繰り出される攻撃に防御にばかり気を取られ攻撃がどうしても後手に回ってしまう。このままでは体力を無駄に消費するばかりでライを倒すことなどできない。それを感じ取り、一度体勢を整えようと後ろへと飛び退いた。しかし、それを予測していたのか、レオマイルが空けた距離と同じだけライが距離を縮めてくる。流石に退いたと同時に迫られるとは思っていなかった。慌ててグ、と足に力を溜め、ライの頭上を飛び越えて後ろ側へ回る。それを視線で辿っていたライが体ごと振り返った。
「どうした!それで俺に勝つつもりか!?」
 鼻で笑われレオマイルの表情が険しくなる。言われなくとも十分に分かっていた。湧き上がる衝動のままに向かっていきたい気持ちをグッと堪える。ここで逆上してはライの思う壺だ。レオマイルが動く気配がないことを悟ったライが呪文詠唱を始める。
(今だ!!)
 魔法を使う際、多くの者が呪文詠唱中や魔法を放った直後に無防備になる。レオマイルはその時を狙っていた。特に威力が大きいものほど大きな隙が生まれる。あるいはそれを見越して防御魔法を同時に発動させる者もいるが、ライはそうではないらしい。この時ほどのチャンスはないだろう。
 レオマイルはライに向かって真正面に駆け出した。
 ライが魔法を完成させ、その矛先をレオマイルに向けた。レオマイルがすぐ目の前に迫っていることに驚くが、同時に(馬鹿か)とレオマイルを嘲った。この距離では直撃は辛うじて避けられたとしても避きることはできない。しかもかすり傷程度では済まないだろう。創りだした魔法は肩に触れただけで片腕を失くすほどの威力を持っている。この至近距離だ、まずレオマイルが助かることはない。
 口元に浮かんだ不敵な笑みを隠さないまま、ライはレオマイルに向けて翳していた右手を一度握りしめ、再びその掌を広げる。ライの元から魔法が放たれ、レオマイルに向かってくる。もはや、避けることなどできなかった。
 迫り来る魔法にレオマイルは動ずることなく手にしていた剣を持ち上げた。そうして足を止め、眼前に刃を魔法に向けて構える。気でも狂ったかとライが鼻で嗤う。
「馬鹿め、魔法が剣などで斬れるわけがない」
 この状態から反撃されることなどあり得ない。ライは腕を組んで悠然と構えた。その一方でレオマイルは静かに目を閉じる。魔法はもう目の前に迫っていた。



 魔法はそのままレオマイルを直撃する筈だった。しかし、爆破音が耳をつんざき、煙が視界の大半を覆うそこにレオマイルは立っていた。彼の両サイドには魔法によってできたであろう大きなくぼみ。本当に、剣が魔法を二つに切り裂いたのであった。誰も予想出来る筈のないことにライが驚き呆然と目を見開く。その隙にレオマイルが再びライに向かって走り出した。剣先をライへと向ける。切っ先に走った光に我に返り動き出すが既に遅かった。走ってきた勢いのままレオマイルの剣が突き刺さる。衝撃に瞳がこれ以上ないほどに見開き、その口の端から一筋、赤が伝う。
 刺した時とは打って変わってことさらにゆっくりと引き抜かれた。あるいはそう感じただけかもしれないが。身体から抜かれた剣がレオマイルの後方へと振り払われる。その切っ先から飛ぶ赤色がなんなのか、それを理解するまでライの意識は持たなかった。
 剣で支えられていた身体が、支えを失って前方へと傾く。ドサリ、という重い音に、レオマイルは深く息を吐く。見下ろすそれがもう動かないことを確認した後、手にしたままの剣に視線を向ける。実のところ、レオマイル自身も魔法が斬れるなどとは思っていなかった。魔法を目前にして無意識に取った行動だった。立ち止まってから「なにやってんだ」と冷や汗を掻いたほどだ。
 見ると、彼の持つ剣の刀身をうっすらと蒼白い光が取り巻いていた。常にはないその状態に首を傾げる。が、すぐに思いつき何かを取り出す。手には小さな球が握られていた。それも、剣と同じように蒼白く光を放っている。その二つを見比べてレオマイルが得心する。
「精霊の加護、か…」
 薄く微笑むと手にした二つを仕舞い、上への階段に向かって走り出していった。



久しぶりの更新です。 取り敢えずこれでレオvsミレディア+ライはおしまい。 いよいよ大ラスが見えてきました!
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