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Land Traveler - 第3章 - 11話

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 部屋に先に戻り、寝ると言っていたファルトの目の前にはエリスと共に消えたはずのレイラがいた。二人は机を前にして無言で向き合う。
「悪いな」
「いえ、これが私の仕事ですから」
 ファルトの謝罪にエリスが笑って気にしないでくださいと答える。その意味は二人にしか通じないものだった。ファルトが荷物の中から一枚の丸められた羊皮紙を取り出す。そしてそれを目の前の机の上に広げる。レイラはその上を飛び、その内容を覗き込んだ。そこには何かの魔法陣が描かれている。
「これは…とても高等な魔法陣ですね。しかも犠牲を伴う…。どこで、これを?」
 魔法陣に描かれている文字の種類や配列、絵柄などを見てその種別を判断する。レイラの言う、犠牲を伴う魔法陣の場合、犠牲の対価として難易度の高い魔法も高い確率で成功させることが可能となる。そしてその魔法のレベルが上がるほどに犠牲となるものの質も上がるのが特徴であった。ファルトの示した魔法陣の犠牲となるものは人の命だった。
「ウィルディスの王宮特別書庫だ。まぁ、多少手を加えさせてもらったがな」
「なぜあの国に…?」
「昔、研究をして成功したことがあったらしい。もちろん、その中心人物は犠牲になったが」
 魔法陣の特定部分をコツコツと指の節で示す。レオマイルに王宮に連れていかれた時に書庫にあった文献から得た情報だ。それを聞きレイラが「なるほど」と頷く。納得するには十分な情報源である。

「それで、今回のことだが」
 そう言って本題に戻した。気を取り直したレイラが「ハイ」と言って再び空中から魔法陣を眺める。
「対象物の力があまりにも強大なので、宙に描くだけでは不十分でしょう。まず、戦いの最中に魔法陣の輪郭を作り、その中に閉じ込める必要があります」
 大きさにして…とレイラは頭の中で簡単な計算をする。それは、通常の魔法陣の十倍は軽く超えるほどの大きさだった。
「ならば屋外での対戦になるか…」
 独り言のようにファルトが呟く。そこに驚きの色は見られなかった。そうして、しばらく戦闘時のことでも考えているのか、黙り込む。それをただ見守っていたレイラがおもむろに口を開いた。ファルトが目線だけを向けて聞き入る。
「今回は私が仲立ちに入ります。そのため、この部分をこう置き換えて…でこの部分はこうして…」
 言いながら羊皮紙の中の魔法陣の文字をスラスラと書き替えていく。その様子にファルトが目を見開いた。
「…そんなこともできるのか?」
「私、元々魔法陣の精霊ですよ?」
 言葉尻に当たり前です、と聞こえそうなほど自信に満ちた声音だった。


 精霊と一言で言っても様々な種類がある。四元素はもとより、レイラのように魔法陣や魔法そのもののための聖霊もいた。

 魔法陣に手を加え終えたレイラが「それと、」と言葉を付け加える。
「幾つか鉱石や玉が必要になります。金、白銀、瑪瑙、瑠璃、玻璃、翠玉あと鋼玉はお持ちですか?」
「エマーオームか…」
「ハイ。それらをこの七芒星の角に置くことで私の力を介入させることができます」
 羊皮紙に描かれている魔法陣は確かに大きく七芒星が描かれている。その頂点にレイラはそれぞれ置くべき石の名を記入する。大きさを訊ねると、小石ほどで十分だと返ってきた。
「判った。明日には揃えよう。…他に何かあるか?」
 今一度レイラが魔法陣を覗き込む。見落としがないよう、舐めるようにその図柄を確認したあと、ファルトに顔を向け「大丈夫です」と答える。それを受けてファルトが羊皮紙を元のように丸めて仕舞いこむ。
「悪かったな、付き合わせて」
 礼をして部屋から出ていこうとするレイラにそう声を掛ける。一度振り返ったレイラはニッコリと微笑み、
「いえ、お役に立てて何よりです」
 と告げ、ファルとの部屋を去っていった。



エマーオーム《Emmah=Ormmt》は七宝のことです。 ただし、本来の七宝は 「金、銀、瑠璃、玻璃、硨磲、珊瑚、瑪瑙」 または 「金、銀、瑪瑙、瑠璃、硨磲、真珠、玫瑰」 の7種です。 中身を変えたかったので言葉も変えました。 実はとっても高価なものが含まれてます。 それをどうやって用意したかっていう裏設定(?)もあるけど割愛します。
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