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どれほど時間が流れただろうか。もう何日も忘れていた眩しさをまぶたに感じ、ファルトは閉じていた瞳を開けた。広がる大地は少し黄色がかった岩石ばかりで、見慣れない色彩に一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。
(あぁ、そうか・・・)
少し離れたところに聳え立つ高い城と、すぐ傍に描かれた七芒星の魔法陣にここがウィズデリアでの戦いの地だと思い出した。ずっと雲に覆われほとんど光の差さない中でしか見ていなかったため、土の色と青々とした空だけで「こんな色だったのか」と少し感慨深く思った。
視界に広がる景色は輝いているが、体はひどく重かった。
腕の一つ上げる気にならないほど疲れきっている。辺りは静かで風が吹き抜けるかすかな音だけが耳に届く。暖かに降り注ぐ日の光とさわやかなその風に、ファルトは再び目を閉じた。
しばらくすると、右肩にごつごつとした何かが当たる感触がして、ファルトは再びうっすらと目を開いた。
「蒼・・・?」
いつの間にか、同じようにぼろぼろになった相棒が隣までやってきてその額を右肩に押し付けている。構ってほしい様子とはどこか違うように感じるが、共に最期まであってくれた労いも込めてその頬に手を伸ばす。しかし蒼はその手をするりとかわして脇を潜ると、鼻先を岩にもたれたままの背中に回りこませた。
「どうした・・・?」
まるで動けと言わんばかりの態度に困惑する。されるがままに上身体を起こすがやはりだるい。何かを訴えるようにじっと見つめてくる瞳を、真意を探るべく同じように見つめ返した。
『お待ちしております…』
「・・・っ!」
その時、頭に響いたその声と、丸く大きな瞳の奥に銀色に靡く髪が映ったような気がしてハッと目を見開いた。ファルトの様子で意図が伝わったことを悟った蒼が、急かすように大きく身震いをする。
「そうか、だからお前・・・」
眩しそうに目を細めて相棒を見つめる。まっすぐに見つめてくる瞳が、交わした約束を破ることを許さない。主よりも正直なその態度に苦笑が漏れた。投げ出していた足を曲げ、片手を地につけてぐっと力を込める。立ち上がった瞬間にグラリ、と揺れたが2,3歩たたらを踏んで耐えた。再びこの場で眠りにつく気はもうなかった。
蒼の身体を支えに手綱を握り、やっとのことで鞍に跨る。その重さに一度蒼の身体も揺れたが、振り落とされることはなかった。
「行こう、あいつらが待ってる」
蒼の首を1,2度撫でて手綱を引く。大きく羽ばたいた飛竜は、数度ふらつきながらも力強く西へと飛び立っていった。
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