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(誰、だ…?)
深海のように暗く、靄のかかったような所だった。ふと、誰かに呼ばれたような気がしてその人物は瞼を開けた。
広がるのはもうずっと変わることのない闇。何度も光を探して見つからなくて、もうずいぶんと前に探すことを諦めた。しかし彼は再び起き上がろうとした。暗闇から抜け出そうと懸命にもがく。
なぜ今になってそうするのか、本人ですらわからない。ただ声が、そう、声が聞こえたのだ。彼を呼ぶ、誰かの声が。
(出なければ、呼んでいる…)
ただそれだけを思って必死に身体を動かす。しかし、彼を嘲笑うように状況はなに一つ変わらない。それでも彼はもがき続けた。
その、痣のついた手を頭上に差し出してーーー。
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