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Land Traveler - 第3章 - 8話

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 次の街に辿り着く前に四人は荒野へと降り立った。正確には街へ降り立ったはずはずだった、地図の上では。地図上の大きさや、遠いヘラザードにいても耳にした名前からおそらく大変な賑わいを見せていただろう。にもかかわらずそこには名残すらも残さない無惨な更地が広がっていた。それは、今まで見てきた破壊された街の様子とは全く異なっていた。残されたものが殆どないのだ。土地は砂漠と化し、水分のかけらも見当たらない。僅かに乾涸びた死骸と今にもボロボロと崩れそうな柱があるばかり。襲撃されてからしばらく経つのかと思うが、それにしては風化が早すぎる。
 ファルトを地に降ろすと蒼が上空へと舞い上がる。その風圧で近くにあった柱の残骸が砂へと還った。風で砂が舞い上がる様をただ無言で見つめる。レオマイルはファルトの様子を見て、レイラを連れてその場を離れた。彼の顔が、少しばかり何かに苦しんでいるように強張る。
「やっぱ、辛いよな……」
 少し離れたところでじっとファルトを見つめる。風で二人の間に砂埃が舞った。
 一人佇むファルトにアクエリアがそっと近付く。
「これは…?」
 辺りを見渡して訊ねる。ファルトの目線が一度だけ彼女に向けられる。しかし、それはすぐに戻された。
「少し前まで街だった場所だろう」
 遠くを見つめたまま静かに言葉を紡ぐ。その背中がアクエリアには儚げに映った。
「ここにもモンスター達が…」
 それにしてはあまり爪痕の見られない様子にアクエリアは疑問を抱く。すると、それを察したのか、ファルトが「いや」と彼女の言葉を否定した。
「おそらく、ヴォルドヴェラ本人の手によるものだろう」
 おそらく、とは言っているが確信を得ているのだろう。迷いのないきっぱりとした口調だった。
「何故、本人と……?」
 確かに今までのものとは様子が異なるが、それだけでなぜ本人の手によるものと言えるのか。
 アクエリアの目の前で、ファルとは徐にしゃがみ込み、足元の砂を手に取った。水気のないそれはサラサラと指の間をすり抜け、手の平にはほとんど残らない。
「これは風化魔法だ。これほどの広範囲であの魔法を使える奴は他にいない」
 少なくとも俺は知らない、と言う。
 風化魔法―――その名の通り、対象物を魔法によって数秒で風化させる魔法。風属性の魔法であり、燃やして水分を飛ばす火属性とは違い、熟れた者でも失敗することがある高度な魔法である。
 ファルトは手に残った砂を払い落とし立ち上がる。数歩前に進むその様子を、アクエリアは黙って見つめていた。数m先でファルトは足を止め、再びしゃがむ。両手を地面へと延ばし、何かを掬ったのが見えた。乾涸びた鼬の死骸に似たそれは、ファルトの手が触れた傍からボロ、と崩れて風に飛ばされる。それを防ぐように手に力を込めるが、叶わずに崩れて砂に戻り、風に紛れて消えていった。手を握りしめたままファルトは蹲る。その姿はまるで、自分に言い聞かせ、その身に刻み込ませているようだった、この元凶が自分の兄であることを。アクエリアはただ黙ってそんな彼の様子を見つめていた。
 しばらくした後、後ろを振り返ることなくファルトが口を開いた。
「次の、街は?」
 静かな、凛とした声だった。そこに苦しみや悲しみの色は見られない。アクエリアが何も言わずにゆっくりと右腕をあげる。そのまま北の方角を指した。衣擦れの音を聞き取ったファルトが顔を上げ、アクエリアの指し示す先を確認する。ゆっくりと立ち上がる。振り返ると既にレオマイルもレイラも、アクエリアの隣まで来ていた。
「もう、良いのか?」
 ファルトの表情を見てレオマイルがそう確認する。ファルトは視線を移すことなくまっすぐに前方を見つめたままだった。
「ああ。…決心はついた」
 最後の言葉を呟くように言うと、ピーッと指を吹いて飛竜を呼び寄せる。その音に蒼だけでなく、ケイやレオマイルの天馬も空から舞い戻ってきた。彼らが地面に足を着けると直ぐにその背に跨る。そのまま上空に舞い上がり手綱を切る。
 アクエリアの指し示した先、北へと向かって。
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