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Land Traveler - 第5章 - 4話

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 光と熱が辺りを覆い、一瞬にして視界が開ける。けれどそれも少しの間だけで、すぐに後方からのモンスターで埋め尽くされた。
(埒が明かない…)
 延々と続く敵の行列にアクエリアの顔が険しくなる。ファルトたちが上に進んでからどれくらいの時間が経っただろうか。襲いくる敵を引きつけては魔法で一掃してきたが、次々と絶えることなくどこからともなくモンスターは現れる。
(近くで誰かが操っている筈……)
 襲いかかるモンスターを相手取りながら、神経を研ぎ澄まさせてその人物の気配を探る。目の前のモンスターたちと明らかに異なるものを感じるが、うまく撹乱させられてその出処が特定できない。
 ふと、強い力を感じた。それは魔法だったかもしれないし、単にモンスターに何かしら指示を出しただけかもしれない。けれど、その今までとは違う気配にアクエリアは一目散にそちらに駆け出した。目の前の敵だけを払い除け、微かに感じた力の下へと向かう。角をいくつか折れた先に、その人物はいた。宵の色をしたローブに覆われた長身。駆けてきたアクエリアを冷めた目で見つめている。
「アクエリア、だな?」
「あなたは…?」
 疑問ではなく、確認するような響きだった。それに答えずアクエリアが訊ねる。それを肯定と取ったかは知らないが、男は問いに答える。
「セルディス。四天王の一人、らしい」
 低くよく通ったその言葉で、ブワッとアクエリアは総毛立った。同時に彼の手に握られた杖に視線を向ける。その先端にあるオーヴが黒く不気味な色を纏う。「マズい」そう思うよりも前にその色が一気に膨張しアクエリアに襲いかかった。咄嗟に防御壁を創るが間に合わなかった左肩がわずかに悲鳴をあげた。思わず顔を歪めるが、さほど大したものでもない。負けるものかとこちらもすぐに言葉を紡いだ。
「烈火炎上」
「疾風援火」
 素早く詠唱を完成させると、続けざまに二つ、魔法をしかける。襲いかかる魔法にセルディスは眉一つ動かすこともせず、手にした杖の一振りでいとも簡単に弾いてしまう。この程度か、と少し呆れて視線を戻しておやと目を瞬いた。いたはずの場所に彼女の姿が見当たらない。視界のどこにも動くものは映らない。気配を辿ろうとしたところで、背後からただならぬ殺気を感じて振り向く。はらり、と目の前で暗い色の何かが落ちた。同時に感じる左頬の熱さ。視界に光を放つ銀に延びる剣の切っ先。それを辿ると紫暗色の強い光と視線が絡む。


(もう一つの人格…エリス、か)
 先に仕入れた情報から推測する。ミレディアたちの報告が正しければそれなりの剣の使い手だったか。
 視線を反らせないまま至近距離での探り合いが続く。じんわりと血の滲み出た右頬を拭うことさえしない。
 突然エリスが後ろに飛び退いた。それを追うように炎が上がる。体制を整える前に目前から氷の礫が迫りかかる。
 手にしていた剣で砕くが、量が多くて防ぎきれない。エリスの剣を逃れたものが彼女の服や皮膚に牙を剥いた。
(やっぱり、エリス(私)じゃ無理か…)
 手を休めることなく冷静に判断する。量で迫られたら太刀打ちなどできるはずもない。一度距離を取るとゆっくりと瞳を閉じる。剣を目の前に掲げたまま、急いで呪文を唱える。
「聖なる炎よ、その力で我を守り給え」
 呪文を唱え終えるとアクエリアを取り囲むように炎が現れ、向かい来る氷の礫を溶かし一掃した。お互いの魔法が収まると他に何も隔てるものがなくなり視界がクリアになる。距離を取って対峙した状態でアクエリアは再び呪文を唱え始める。セルディスも同じようで、僅かに口が動いているのがわかった。
「雷よ、神々の制裁となりて荒れ狂え」
「闇龍降臨」
 魔法が完成したのはほぼ同時だった。アクエリアが生み出した雷が、セルディスの召喚した闇龍に向かって真っ直ぐに伸びてゆく。二人の魔法が絡み合う様子は、まるで白と黒の龍がお互いを喰い潰そうとしているようだった。アクエリアはそれの決着を待たずに次の魔法を形成していく。
「闇を照らし、悪を葬れ!」
 次の瞬間、アクエリアたちがいる階が眩いまでの光に包まれた。予想しなかったまぶしさにセルディスが右腕を翳して光を防ぐ。闇と共に生きる彼にとって光の属性にある魔法は天敵とも言える。それを直に浴びてしまい、いくら四天王と呼ばれている彼であってもダメージは避けられなかった。それでもその口からは呪文が紡ぎ出され、反撃を試みる。
 アクエリアはそれさえも許さなかった。光が収まる前に新たに呪文を紡ぎ始める。彼女から発せられる一言一句に応じてその腕にはめられた媒体である腕輪が淡くオレンジ色の光を放つ。同時に胸元にしまいこんだレイラから受け取った玉が熱を持つのを感じた。なおも詠唱を続けると胸元から白い光がこぼれ出し、腕のオレンジ色と混じり合う。呼応して強まる力を感じながら、アクエリアは光の矢を番えた。
 



本当は次と続きですがちょっと長い気がしたので区切ってます。 また確認終わり次第更新しますー
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