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Land Traveler - 第2章 - 2話

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「実際の所、俺とファルトがまともに会話をしたのは10年位前になるかな」
 暫くの間、どう説明しようかと考えていたレオマイルが、ゆっくりとした様子で口を開いた。
「両親の仲が良いのと同い年って事もあって以前はよく会ってたたりもしたんだけどね。…今じゃさっぱり」
 肩を竦め、おどけて言ったその言葉にエリスは目を丸くする。先ほどまでの二人のやり取りは、彼女の目には気心の知れた親友のものに見えた。もちろん、ファルトの態度は普通の人であったら好ましい態度とはいえないが、普段の彼から考えれば十分気を許していたと言えるだろう。
「とてもそのようには…」
「ああ、さっきは君がいたから。じゃなきゃきっと端からシカトだっただろうねぇ…」
 どこか遠くを見つめて薄く笑うレオマイルに戸惑いを隠せないエリス。まさかそんなことは、と思うが、よくよく思い出してみると確かに街中でレオマイルの呼び声に反応したのはエリスであり、彼女がいなければファルトの場合、あのままその場を去ったかもしれない。たとえレオマイルが声をかけた相手が自分だと気付いていても、だ。

「ところで…君はエリス?それともアクエリア?」
「エリスです。アクエリアは目が見えないので区別は付きやすいかと」
 突然話題を変えるように、明るく訊ねたレオマイルに、エリスはアクエリアとの見分け方まで答えた。城に着く前に名乗ってはいたが、今どちらの人格と話しているのかわからなかったレオマイルはその答えに「確かにそれはわかりやすいね」と微笑むと、少し顔つきを変えた。
「エリス、君はファルトの今回の旅の理由は知っているのかい?」
 穏やかな表情にわずかに真剣味を含めたレオマイルの質問に、エリスの表情が曇る。その表情に、レオマイルがおや、といった顔で身を乗り出した。
「訊ねたんですけど、はぐらかされてしまったと言うか…」
尻すぼみに小さくなった声音に彼女の感じている不甲斐なさがありありと伝わってきた。
「らしいと言うかなんと言うか……」
 そう呟くと天井を仰ぐ。その様子を容易に想像できてしまうだけに、苦笑しか出なかった。そのまま背もたれに乗せた手で頭を支えるようにして何かを考えあぐねる。程なくして再びエリスに視線を戻した。
「その時何か他に話は?」
 前後の話から何かわかるかもしれない。はぐらかしたということはそれより前に今回の旅の理由に近いものを話していた可能性がある。
「昨今の各地での襲撃がウィズデリアにあるといったことを…」
「ウィズデリア…、デコルヴィザードのことか」
 聞き直されたことに声と頷くことで返した。その国の名がすぐに出てきたエリスは驚いた。それと同時にファルトの言っていたようにやはり、トロルの出所をどの国も知っているのだと実感した。そんなエリスの内心に構わずレオマイルは更に続けた。
「なら、ヴォルドヴェラのことは?」
「ヴォルド…?」
 聞き覚えのない言葉に首を傾け聞きなおす。エリスのその反応に、聞き返された言葉を再び口にすることなく、レオマイルは「言ってないのか…」と小さく呟いた。微かに耳に届いたその言葉に、ウィズデリアの話に関係があると察したエリスが身を乗り出す。
「それは一体何なのですか!?」
 言ってから思っていた以上に声が意気込んでいたことに気付き、慌てて姿勢を正す。エリスの勢いに思わず驚いて身体を反らせたレオマイルだったが、気にしなくて良いと笑ってそれを許す。しかし、そのまま考え込むように腕を組み、少し難しい顔をしながら時折エリスを見た。
 脇に控えていた小間使いが空になったカップに再び紅茶を淹れにきた頃、ようやく何かを決心したように一つ頷くと、そのまま小間使いを下がらせた。
レオマイルの命を受けて小間使いが一礼して部屋を去る。扉が閉じ、靴音が遠くなった頃、レオマイルが立ち上がり、小間使いが去った扉の向こうを覗き込んだ。そのまま近くに誰もいないのを確認すると、扉を閉じエリスに向き直る。見上げるエリスをしっかりと目に捉えながらレオマイルが口を開いた。

「そうだね、君は知っておくべきかもしれない。ファルトとこのまま旅を続けるのなら」
 見上げたレオマイルの瞳に影が宿ったような気がした。



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