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Land Traveler - 第5章 - 11話

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「レオ!後ろだ‼」
 咄嗟に気配の先を探り叫ぶ。急に叫ばれたレオマイルは驚きながらもいっそ本能的とでもいえる反応で右に飛んだ。直後、レオマイルが今までいた辺りに黒いオーヴのようなものが現れた。慌てて更に2、3歩距離を取る。現れたオーヴは一度収縮すると、稲妻のようなものを伴って破裂した。薄く鋭利なガラス破片のようなものが稲妻と共にレオマイルを襲う。腕で顔を覆い防御したため直撃は免れたものの、肩や腕を掠め衣服を裂く。触れた稲妻は大きさの割に強力なようで、その痺れにレオマイルの膝が床に着く程だった。
 言う事の聞かない身体に鞭打ち、魔法を放った人物を探す。レオマイルが向かっていたヴォルドヴェラとは反対側、ファルト達より後方左側に見覚えのない人物を見留め、苦々しく顔を歪めた。ファルト達が駆け寄ってきてレオマイルを支える。目的の人物はこちらを気にした様子もなく悠然と通り過ぎ、ヴォルドヴェラの元へ下った。
「遅れまして申し訳ありません」
「気にするな、ディオクレイア」
 恭しく頭を垂れた後、ようやくレオマイル達を振り返った。
「運の良い奴め」
 あからさまな舌打ちをし、虫けらを見るように蔑む。その掌に剣が召喚された。立ち上がろうとするレオマイルを制してファルトが応じた。彼女を見据えたまま同様に剣を召喚する。そのままディオクレイアへと数歩足を進める。睨み合ったまま、決して彼女から目を逸らさない。レイラがそっとレオマイルを支えながら壁際に移動した。



 レイラ達との距離が空いた途端、待っていたとでも言うようにファルト達が動き出した。2人がぶつかる前にまずは大きな音を立てて魔法が衝突する。それが治まる前に別の場所で金属がぶつかり合い、小さな火花を生み出した。次いでディオクレイアが背後から氷柱に襲われたと思えば土壁が出現し彼女を守る。他にもゴーレムや龍のように動く水が現れ、床や壁が隆起しては粉砕され、剣で切られていく。

 ファルトが激闘を繰り広げる中、レイラはレオマイルの治療に当たっていた。ディオクレイアから受けた魔法が未だに消えず、彼の身体の周りを黒いプラズマが駆け巡っている。見る限り外傷に大きなものは見当たらないがレオマイルは既に意識を失っている。そこからも先程の攻撃の衝撃がどれほどのものかが伺えた。なんとかこのプラズマのようなものだけでも取り除きたい。しかし、レイラが触れても変わらずレオマイルの身体に留まり、消える気配がない。 いったいこれは何なのか。
(まずい、このままじゃ…)
 正体のわからないそれに焦りを感じた。礼らは大急ぎでレオマイルを横たえ、側に魔法陣を描く準備を進める。正直に言ってしまえば、どんな魔法が正解なのかわからないし、魔法力を温存しておきたいのは勿論のことだ。だが、この状態のレオマイルを放っておいては危険だと頭の何処かで警鐘が鳴り響いている。とにかく何かしなければ。まずはこの得体の知れない魔法がレオマイルに及ぼす影響を弱めて…と必要な要素を考え巡らした。




「何を、している?」
 保護のための魔法が完成し、二つ目の魔法に取り掛かった時、頭上から聞こえた地を這うような低い声にレイラは竦み上がった。背中に冷や汗が伝う。ぎこちない動きで顔を声のほうへ向けた。そして息を飲む。目を見開いたまま瞬き一つしないヴォルドヴェラが、真上から覗き込んでいた。真紅の色を宿しているはずなのに闇そのもののようにすら感じられるその瞳から、感情の一つも読み取ることができない。その視線がチラリ、とレイラの後方にいるレオマイルに向けられる。
「勝手なことをしてもらっては困るな」
 トン、とヴォルドヴェラの剣が先程完成したばかりの魔法陣に触れる。それだけで魔法陣は風に吹かれたように消えてしまった。信じられないその光景に目を見張る。たった一回、剣先で触れられただけだ。何故、色々なことへの疑問が浮かぶ。治療すら許さないのか。茫然と見上げるレイラの視界の端に何か黒い塊が映った。ヴォルドヴェラによって生み出されているそれに逃げろと頭が警告を発するが、身体が言うことを聞かないどころか瞬き一つできない。


「レイラ‼」
 黒い塊が振りかざされ、もはやこれまでかと思ったその時、突然部屋の扉が開け放たれ、エリスが飛び込んできた。彼女の声に解き放れたように身体が動くようになり、レイラは慌てて後ろのレオマイルを抱えてヴォルドヴェラの前から逃れる。一瞬の耳鳴りのようなものの後、恐る恐る今まで座っていた所を振り返る。床が、ない。先程ファルトと戦っていた時と同じだ。丸くくり抜かれた床の端がパラパラと砂を落としている。あのままだったらどうなっていたか。想像してゾッとした。階下に落ちるならまだ良い。もし床同様「砂にされて」しまったら。恐ろしさのあまり抱えていたレオマイルをしっかりと抱きしめた。そんなレイラの下にエリスが心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
 逃げた姿勢のまま動かないレイラ覗き込んで訊ねる。なんとか頷いて返したレイラに安堵するも状況は変わらない。キッとヴォルドヴェラを睨み付けるとエリスは2人を背に立ち上がった。



なぜか非公開状態でした。
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