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Land Traveler - 第4章 - 10話

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 ライがヴォルドヴェラへの報告を終えて戦場に戻った時、ファルトたちは既に城壁近くまで辿り着いていた。ライはその場にいたモンスターにヴォルドヴェラからの指示を伝えると、そのまま上空へと登って行く。彼を見送ったモンスターたちは彼からの言伝を周りに広めていく。
 まだ、ヴォルドヴェラからライたちに参戦の許可は下りていなかった。少しくらい手を出してしまいたかったが彼の指示なしには動けない。仕方なく、ライは上空から高みの見物へと決め込んでいた。
 徐々に指示が伝わっていく様が、一目で見て取れた。自分がいたところから波が伝わるように攻撃の矛先がレイラへと変わっていく。その様子をいつまで持つか、とぼんやりと眺めていると突如その隣にセルディスが現れた。手には愛用の杖が握られている。彼はライに何か話すこともなく小さく呪文を紡ぎ始める。少しずつ彼の持つ杖の丸みを帯びた先が黒い光を帯び始めた。戦場に目を向けると一見何の変わりもみられない。しかし注意深く全体を見渡していると、ファルトたちの真下の地面が不自然に盛り上がっていることになる気が付いた。そしてそれは段々と大きさを増す。モンスターたちの標的が変わったことでファルトたちはその地面の変化に気付かない。
 呪文詠唱が終わったセルディスが杖の先を不自然に盛り上がったファルトたちの真下の地面に向ける。すると、そこからボコッと音がしそうな勢いで土でできた無数の巨大な手のようなものが現れた。それらは一直線にファルトたちに向かって伸びていく。それに気付いたファルトたちが慌てる。対処しようにも時既に遅く、彼らの乗っていた飛竜や天馬はその足や翼を無数の手に絡めとられ、レイラもその足を掴まれて地面へと引きずり落とされた。
「あれは?」
 四人が地面に伏したと同時にただの土へと姿を変えていく様子を上空で見つめていたライが、隣に立つセルディスに訊ねた。
「引きずり落とせとの、ヴォルドヴェラ様の命だ」
 それを実行したまで、と下を眺めたまま黙る。本当にそのようで、他の魔法を使う気配もない。ただことの成り行きを見守っているといったほいうが正しいのでは?と思うほどである。
「ちょっとぉ!ライぃ さっきのなぁに?」
 突如そんな声が聞こえ、目の前に拗ねた様子のミレディアが顔を見せた。
「ヴォルドヴェラ様の命だそうだ、引きずり落とせと」
 答える気のないセルディスに代わって答える。それを聞いてふ~んと少しつまらなそうに口を尖らせる。モンスターたちを主導していたところに横槍を入れられたのが気に食わなかったのだろう。ヴォルドヴェラの命だと言われてしまえばセルディスに噛み付くこともできない。
 その時、ふとライはこの場にディオクレイアがいない事に気付く。ミレディアと共に行動していたはずである。
「ところで、ディオクレイアはどうした?」
「ん~と、むこうにいるわよぉ」
 対面する城壁の方を指して言う。欠伸でも出そうな言い方にライは呆れ返る。
「…置いてきたのか?」
「違うわよぉ。だってあの子ディオクレイアったら城壁の奴らに指示出しに回ってるんだもぉん」
 ほらあそこ、と言われて見ると城壁の上を行き来する見慣れた姿があった。そこまでしなくても、と思うほどに弓兵の間を縫っては何か言葉をかけていた。弓兵たちは矢を番え、その先を、地面に引き摺り下ろされてなお進む速度をあまり変えない四人に向けている。
再び城壁に視線を戻して、ライは目を凝らした。弓兵のすぐ後ろに何かがいのに気付いた。遠目ではっきりとしたことはわからないが、黒い塊に見えるそれは、おそらく獣の類であろうがどこか異様な雰囲気を纏っていた。
「なんだ、あれは?」
 弓兵の後ろ、と指を差すと気付いたセルディスも目を眇め、首を傾げた。
「なんだっけ。獣と妖魔の融合体?って確か言ってたわよぉ。今回のためにわざわざ造ったんだってぇ」
 確かにそれは異形だった。ぱっと見はわからないが、牙がやたらと長く後脚が前のそれの二倍ほどもある。そんなものが弓兵の後ろで四人に襲いかかる時を今かと待ち侘びているようであった。


 その時、ビュッと音を立てて弓兵が一斉に矢を放った。そして同時に後ろに隠れていた獣と妖魔の融合体が飛び出し、四人を目指して城壁を駆け降りて行った。
「城壁が破られたら我等も城内に入るぞ」
 降ってくる大量の防ぎ、壁を駆け下りてくる見たこともない化け物にたじろいだ様子を見せるファルトたちを視線で追いながらセルディスが二人に告げた。同じように戦場に目を向けていたライがセルディスに視線を移す。
「それもヴォル様の指示?」
 ミレディアも同様に視線を向け、疑問をぶつける。彼女の場合、セルディスの言葉が命令でない限り従うつもりもなさそうだった。
「いや。しかしそろそろ参戦の命令が下されるだろう」
 セルディスが首を横に振って答える。その言葉にミレディアは仕方ないと言うように肩を落とした。
「ならば、ディオクレイアにも伝えるか」
「いや、あいつはまだいい」
 そのまま彼女の元へ向かおうとするライをセルディスの言葉が止める。何故、と問おうと彼のほうへ振り返ったが、その顔を見てやめた。何も答えないであろうことが、経験でわかった。改めて下の状況を見る。今回のためにわざわざ造ったというモンスターが四人の元へ辿り着いていた。時間をおいて駆け下りたはずだが、弓兵の放った矢の犠牲になった数がそれなりにいた。四人の勢いはあまり止まらない。おそらく数刻もしないうちに城壁を突破するだろう。
 ふと、ファルトたちに向かっているモンスターの数が思った以上に減っていることに気付いた。四人に倒された数を考えても減りすぎである。辺りを探ると城壁内で待機するモンスターの数が増えている。ディオクレイアが指示したのであろうか。わざわざ造った奴らを時間稼ぎの駒に使うとは。ライにはディオクレイアの考えがわからなかった。
「ねぇセルディス、私もちょっと遊んできてい~い?」
 何を思ったのか、地上の様子を見ていたミレディアが、目を輝かせてセルディスに訊ねる。それはまるで新しい玩具を見つけた子供のようであった。早々に飛竜に飛び乗って四人の下へ行ってしまいそうである。セルディスがの目がミレディアの言葉に、不快そうに眇められた。
「参戦許可は出ていない」
「いいじゃない、チョットだけ」
 お願い、と言うように顔の目の前で両手を合わせ、上目遣いで許しを請う。しかし、セルディスの表情は変わることはなくあまつさえくだらないと言うようにミレディアから視線を外してしまう。それを見てミレディアは詰まらなそうに合わせていた両手を合わせ離して肩を竦めた。こうなったセルディスが梃子でも動かないのを知っている。動かせるのはヴォルドヴェラくらいだということも。
 二人のやり取りを黙って見ていたライが大袈裟に溜め息を吐いた。視線が彼に集まる。
「ヴォルドヴェラ様には俺から言っておく。やり過ぎない程度にしろよ」
 途端に双方の表情が変わる。ミレディアは嬉しそうに破顔し「ありがとぉ」と抱きつかんばかりの様子だ。一方のセルディスはライを咎めるように鋭い視線を向けてくる。その視線を受け止め、ライは両方の手の平を上に向けて肩を竦めてみせる。
「少し位いいだろう」
 勝手に動かれるよりマシだろうだろうと言うときつい眼差しは変えないものの、それ以上何か言ってくることはなかった。

 そもそもミレディアはとうの昔に地上へと駆け下りて行ったあとだった。



敵側視点でしたー。 ミレディアちゃんは良く動いてくれるし何よりあんな喋り方なので特徴あって好きです。 彼女ももうちょっと掘り下げてみたかったんだけどなぁ。。。 というか、口調迷子になるほどブチ切れてホラーかってほどの形相で罵ってるところとか書いてみたかった。(えげつない) ちなみにセルディスはノーヴ。 どういった経緯で今の位置にいるかも決まってる。 実によくあるパターンだけど。
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