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Land Traveler - 第5章 - 5話

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 辺りを覆っていた光が収まる頃にはセルディスは反撃のための魔法の八割程度を創り上げていた。しかし途中で前方から襲ってきた何かによって遮られる。決して大きくはないそれを咄嗟に掴んで正体を見る。握っているのは白い光を放つ矢だった。手のひらがピリピリと痺れにいた痛みを感じている。普通の矢ではないのは明白だった。
「矢、しかも魔法の矢か…」
 その言葉を待たずに次々と無数の矢がセルディスを襲う。防護壁を創りそれを弾く。そうして中断させてしまった魔法を再び創り始める。そうしている間にも周りの様子を伺い、アクエリアの位置を探る。防護壁を創った直後には彼女が前方から動いたことは知っていた。カツン、と硬質な音が背後でした。完成した魔法を手に携えて振り向く。先ほど同様、すぐ近くにいた。反射的に手にある魔法を放つ。アクエリアからも魔法が放たれ、間近で二つの魔法がぶつかった。激しい光と風が生じ二人の距離を広げる。畳み掛けるようにセルディスに魔法が襲いかかる。予測していなかった彼は壁を作ることも間に合わずにその攻撃をもろに受けることになった。先ほど浴びた光魔法に続けての魔法の直撃に膝をつく。上体を支える腕も力が入らないのかガタガタと震えている。カハッと口から吐き出されたものは真っ赤だった。
 そんなセルディスの様子をアクエリアは無言で見つめていた。身構えずとも彼がもう攻撃できないのは明らかだった。
「どうした、とどめを、刺せ」
 一向に手を下さない彼女に焦れた。醜聞をさらす気はなかったし、晒し者にされるなどまっぴらだ。けれど彼女は首を横に振るばかりで剣を握ることも呪文を唱えることもない。情けでもかけるつもりか、と腹が熱くなる一方で敵にそんなものをかけられるような己の状況に笑いたくもなった。しかし、激情に任せて襲いかかることも声を出して笑うことももうできそうにない。瞼が落ちる。霞む視界に映ったのは踵を返して進むアクエリアと、その行く先を阻むように現れた小さな老人の姿だった。




「ほう、セルディスを倒した、とな。ただの従者と見くびったか…」
 そう言って品定めをするように己を不躾に見るその人物にアクエリアは困惑した。
老人は突然現れた。セルディスがこと切れるのを待たずに上に行こうと踵を返した。そして五歩も歩かないうちに彼は廊下の先に現れた。曲がり角があったわけではない。柱の影に隠れていたわけでもない。本当に、突如としてその場に現れたのだ。
 アクエリアは目の前の老人を注意深く観察する。杖に全体重を預けるようにして立つその姿は女性であるアクエリアから見ても低い。曲がっている腰のことを鑑みても、だ。一見すればただの年老いた老人。しかし彼の纏う気配が「ただの老人」と片付けさせてはくれなかった。アクエリアの額にツ、と汗が伝う。対峙していることからも、こんな場所で出会ったことからも良い方向にはいかないだろうことは容易にわかった。
 無言で己を見つめるアクエリアに、老人が顔を歪ませて嗤う。
「我が名はドラン。セルディスとは少々格が違うぞ?」
 言外に倒せるのか?と嘲ると、短く呪文を唱えたあと、トン、と杖を鳴らして十数体のモンスターを瞬時に召喚する。召喚されたモンスターは主の命令を待たずにアクエリアに牙を向いた。その隙間からドランが更に後方へと下がっていくのが見える。
「そ奴らを倒し、わしの所まで来るがいい」
 そう言って低い笑い声を残して闇に消える。その後を追おうとするも目の前のモンスターたちが退く筈もなく、彼女の行く手は阻まれた。焦る気持ちを抑え、改めてモンスターたちをみすえる。
 光が、モンスターへと目掛けて飛び交った。



対セルディス、コレにて終了です。 もう登場しないんでネタばらし的な感じで言えば、セルディスは研究・開発向けな人物なので実践は苦手なんです。 相手の動きを講じて瞬時に次の手を打つとかほぼできないでしょうねー
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