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Land Traveler - 第6章 - 4話

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「そうか。娘ができたようで楽しかったのだが…。寂しくなるな…」
「っ!?」

 その時、2人しかいなかったはずの空間に、突如背後から別の声がかかった。驚いて後ろを振り返った視界に、紫紺のマントを羽織った壮年の男性の姿が映った。その、ファルトと同じはしばみ色の髪に冠にあつらえた青いダイヤが映える。
「フロベール、陛下…」
 驚きのあまり礼をすることも忘れて呟いた。城の主であり、2人が今世話になっているその人物は従者の一人も連れずゆっくりと2人の許へと歩み寄ってくる。
「何、言ってんすか…」
 親友であるファルトの父ということもあり、多少気心の知れたレオマイルが飽きれた様子で言葉を返す。息子と同い年の若造のそんな態度にも王は愉快そうに眼を細めるだけだった。
「いいじゃないか、うちは息子しかいないんだ。しかもまだ結婚もしてない。一度、娘との日々というものを経験してみたかったんだよ」
「だからってなぁ…。あぁほら、エリス困ってるじゃないっすか」
 見ると、ポンポンと進む2人の会話に入れないでいるエリスが、どうして良いのかわからず完全に困り果てた顔でキョロキョロと2人を見ていた。そんなエリスの様子にフロベール王から高らかな笑い声が響く。それにますますエリスは困惑し、レオマイルからはついにため息まで漏れた。娘と言われて嫌な気はしないが、何せ一国の王の言葉。恐縮してしまい、おいそれとレオマイルに「お気になさらず」とも言えない。
「いやぁ、すまないすまない。…いい子じゃないか。ファルトの隣にいるのがこの子で安心したよ」
 ひとしきり笑った王は、目尻にたまった涙をぬぐって微笑んだ。はぁ、と気のないとも取れる返事をするしかないエリスだったが、その後謝罪の言葉を口にしたフロベールの深く慈しむような瞳に、再び別の意味で困惑することになった。どうしたらいいのか助けを求めるようにレオマイルを見たが、先ほどまで呆れていた彼も何故か含みを持った表情で目くばせするだけだった。
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