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Land Traveler - 第6章 - 5話

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「エリス、でいいかな?」
「っ、ハイ!」
 急に、先ほどの陽気な態度とは打って変わって落ち着いた様子で声を掛けられ、無意識に姿勢を正した。フロベール王はそんなエリスをじっと見つめた後、頷くように一度ゆっくりと瞬きをする。
「落ち着いたらでいいから、一度城へ寄りなさいと、ファルトに伝えてくれないか?」
「え…?」
 全く予想していなかった王からの願いに、エリスは目を瞬いて止まった。虚を突かれたような彼女の様子に、フロベール王は少し寂しそうに苦笑を浮かばせる。
「これでもアレの父親だ。もう戻るつもりがないだろうとは、初めからわかっていたよ」
 それでもせめてもう少しマシな別れが良かったなぁ、と口許だけで笑って見せる王に、何と返していいかわからずエリスも、隣で聞いていたレオマイルでさえも言葉を詰まらせてしまった。言った本人はここにいないファルトを思ってか窓の外、青く輝く遠くの空を見つめている。その横顔は確かに寂しそうであったが、息子にもう簡単には会えないという事実を、ただ静かに受け止めているようだった。


「陛下…」
 思わず零れた声にフロベール王が改めてレオマイルに向き直る。その顔にはもう寂しさも、乾いた笑みも見当たらなかった。
「レオ君も、ファルトがいなくとも気にせずにまた遊びに来てくれ」
 そのままいつもの、どこか掴みどころのない態度で「邪魔したね」と片手を上げると、颯爽と2人の前から立ち去った。慌てて2人は一礼をし、その姿を見送る。



 王の後ろ姿が見えなくなった頃、レオマイルがフーッと一つ長い息を吐く音が聞こえた。乱雑に前髪を掻き上げ、エリスのほうへと向き直る。
「相変わらずというか…驚いたろ?なんか、悪いね」
「いえ、その、気さくな方なのですね」
 謁見の間ではもっと厳格な人物に見えた。夕食の時でさえ、落ち着いていて間違ってもふざけた冗談など言わないように見えた。それ故に今の様子に少し拍子抜けしたような気分になってしまう。
「あ~、あの人普段結構あんな感じだよ。一応公式の場とかだとちゃんとしてるけど。あとファルトがいるとそうは見えないしね、なにせファルトがファルトだし。でも、時々タランド宰相に窘められてるの見たことあるな」
 表情変えずに冗談言うから本気かわからないんだよ、とレオマイルが少し困った顔で頭を掻いた。

「本気か冗談かわからないあたり、親子って感じ?」
 ほら、ファルトも真顔で色々やるし?と笑って見せる。確かに旅でのレオマイルとの応酬では、本気と紛うような言動でよくハラハラしたな、とエリスはひと月程しか経っていない旅の事を改めて懐かしく思った。 
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