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「奴らは城郭を突破。ほぼ全てのモンスターを魔法で殲滅しながら現在こちらに向けて進行中です」
ライが片膝を付き、ヴォルドヴェラに戦況を報告する。二人がいる城の頂上からは砂煙と蟻ほどの大きさの人の群れのようなものが見えるだけで、詳しい状況はわからない。ただどちらの勢いも変わる様子がなく、その距離が少しずつであるが近付いてきていのはわかった。ヴォルドヴェラは驚いた様子もなくライの報告を聞き、遠くの戦況を眺めている。
「ノーヴの相手をしているのは?」
「レイラで御座います」
聞かれたことに明瞭に、端的に答える。余分な説明など、このような時には不要だった。
「ならば、そいつを集中的に攻撃しろ。勿論、ファルトの魔法にも気をつけろ」
「は」
言葉と共にライはその部屋から姿を消した。戦場を見ていると、しばらくもしないうちに僅かながらにも変化が見え始めた。それを確認すると、ヴォルドヴェラは漆黒のマントを翻して腰をかける。
「セルディス」
彼以外誰もいないはずの部屋でそう呼ぶ。すぐに目の前に呼ばれた人物が姿を現した。
「何か」
先ほどのライ同様片膝を付き、君主を仰ぐ。いつの間にか玉座のそばに置かれていたグラスを手にすると、ヴォルドヴェラはそこに注がれた赤をくるりと回す。
「奴らを引き摺り下ろせるか?」
グラスの壁にできた模様を眺め、問う。視線を向けられないセルディスの口許が愉快そうに歪んだ。それを戻さないままス、と音もなく立ち上がりその右手に杖を召喚する。
「承知」
深く一礼をしてそのまま闇に溶けるように消えていった。ヴォルドヴェラは彼のいた場所を見つめたまま、不敵な笑みを浮かべる。
「ここまで辿り着いてみろ、ファルト…」
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