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Land Traveler - 第2章 - 4話

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 男は畏まって膝をついた。垂れた頭に無感情な視線が刺さる。主であるその方の視線は、すべてを見透かしているようでいつもどこか恐ろしく感じる。
「何かわかったか?ライ」
 視線同様、無表情な声だった。名前を呼ばれた男は短く返事をして顔を上げる。彼の方は頬杖をついたままこちらを見下ろしていた。
「まず、トロルに行わせていた調査の件ですが、多少バラつきはありましたがおよそ5カロル圏内にすべての魔法陣を確認しました。ただ、やはり近隣と比べて威力は弱まっており、多くの魔法陣が半減、最悪のものは不完全のまま発動しなかったようです。先の襲撃で発動したものはこれらに手を加えられたものと思われます。そしてその襲撃についてですが…」
 そこで不意に言葉が途切れる。椅子に座って黙って報告を聞いていた主が手を挙げライの言葉を静止させていた。緊張した面持ちで次の動作を窺う。主は頬杖を着いた手を口元に宛て、しばし考えあぐねているようだった。
「5カロル、か…」
「は、ハイ」
 静かに響く声にライの身体に緊張が走る。無表情だった瞳にどこかつまらなそうな色が混じった。
「遠いな…」
「しかし、ここからの距離を考えるとそれだけで収まったのはむしろ…」
「ここからの距離など関係ない。愚鈍なトロルどもをそれだけ移動させると言うのがな…。して、襲撃の件はどうでった?」
 少し慌てた様子で説明をするライにばっさりと言い捨ててしまう。けれどさほど気にしていないのか、口元に宛てた手はそのままに続きを促す。
「…はっ。多くのトロルの死体が既に片付けられており、細かな点まではわかりませんでしたが、残っていた武器や魔法の形跡からして、おそらく相手は5人もいないでしょう。回収できたトロルの記憶を調べたところ、その内の男女2人の姿が確認されました。女のほうは髪の色が銀だったことから、ケミル族と見て間違いないでしょう。男のほうは…申し訳ありません。髪の色が茶系とはわかったのですが、種族までは判別できませんでした。しかし、共にそれなりの魔法の使い手のようです」
 先程の話の内に知らずに上がっていた頭を下げる。主はそれを口を挿むことなく聞いている。
「それと、あの襲撃以降、大陸の中央から西側でトロルが何度か壊滅させられております。 タイミングから考えて同一の集団によるものと思われます」
 その言葉に周りが一瞬にして騒然となる。今まで一方的にトロルを送り込んでいたため標的となった村は抵抗むなしく滅びるばかりだった。それが急に、しかも僅か5人ばかりの人間に阻止されてしまったとなれば由々しき事態だ。
 思い思いに口を開いた周りを、態度を一つも変えないまま、主が片手で制す。皆の動きがピタリ、と止まった。緊張した視線が主に集まる。

「いずれ妨害は来るものだ。だが放っておくつもりもない。其奴等のことは引き続きライと…ディオクレイア、お前も調べろ」
 新たに別の人物が呼ばれ、それに呼応して女性が静かに返事を返す。声の主は、そのまま姿を現すこともなく気配を消した。
「ライ、お前も行け。…次を楽しみにしておくぞ」
 不敵とも見える笑みを浮かべた主にゾワリ、と背筋に冷たいものが走った。『次までに敵の素性を調べ上げねば命はない』という言外に含まれた意図と、突きつけられた刀身のような殺意に口がカラカラに渇いた。何とか返事だけを返したライは辛うじてといった様子で部屋から消えていった。




 他の者を立ち去らせた後、部屋には玉座に座る王と、傍に控える老人の二人だけが残った。
「…っ」
「陛下!?」
 おもむろに立ち上がった途端にふらりとよろめいた主に共に残った老人が近寄って声をかける。大したことはないとそれを手で静止させられるが、尚も心配そうな顔で彼を見やる。主はそのまま片手を老人に向け、逆の手を玉座にかけて身体を支えている。
「…やはりご無理だったのでは…?」
 いくら試しだと言ってもあれは無理をしすぎた、と考える老人の頭に浮かんでいるのは、先程ライに報告させた襲撃を受けた地に最初にトロルを仕掛けた時のことであった。試験的にとしてここからできうる限り遠い集落に陛下は魔法陣を仕掛けたが、その直後の憔悴がまだ残っているとは。
 見上げる老人に王は首を横に振る。暫くして落ち着いたのか、深く息を吐くと改めて「いや」と老人の言葉を否定した。
「私は問題ない。力も十二分にあるしな」
「では…?」
「この身体だ、忌々しい。替えさえあればすぐにでも喰ってしまうものを…!」
 己の身体を苦々しそうな表情で見つめる。老人が諌めると盛大に舌打ちをして険しいままの視線を外に向けた。

 己の吐いた言葉に身体が拒絶をするようにキシリ、と音を鳴らすのを更に険しい表情のまま感じていた。



カロルは距離の単位です。 1カロルで約100m程度。 昔、街とかで道を整備したりするのに使われてた単位。 さっきふと調べてみたら京都の賽の目もそのくらいの距離だった(実際はもうちょっと長い) …「カロル」と「トロル」が被ってる気がして暫く悩んだけど結局このまま(笑) さらっと書きましたが、ライは死体から死ぬ前の記憶を見ることができます。 やり方はは至って簡単。 まず死体から眼球を抜き出します。 そしてそれを手に乗せて呪文を唱えればあら不思議! そんな具合です ← ただ、鮮明さとかは対象の視力とかその他もろもろに依存します。
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