1. ホーム
  2. MAINページ
  3. Land Traveler
  4. 第2章
  5. 7話

Land Traveler - 第2章 - 7話

章先頭へ 前の話へ 次の章へ
縦書き
「異端児…?」
 あまり普段聞きなれない言葉を、エリスが確かめるように反芻する。それを聞き間違いでないと示すようにレオが深く頷いた。
「ルノア族は、どの一族も必ず何十代かに一人、様々な分野における桁外れの能力と、左手の甲に何らかの形をした痣を持った子供が生まれるんだ。それが、異端児」
 痣の形は紋様だとか魔法陣だとか言われてるけど、実際見たことはないからなんとも言えないけど、と己の左手の甲を撫でながら苦笑する。そこには勿論、彼の言う痣など欠片も見当たらない。
 そこで暫くレオが押し黙る。エリスが次に続く言葉に耳を澄ますと、不意に扉がノックされる。注意が反れ、扉に振り返ると、レオが許可を下す先から一人の従者が中に入ってきた。彼は一礼すると手にした明かりを使い、部屋中の明かりに火を灯し再び一礼して去っていく。それを見届けると、エリスが視線を戻すのを確認して再びレオが話し始めた。
「異端児はその桁外れな能力故に生まれてすぐ抹殺されるんだ」
 エリスがえ、と少し怪訝な顔をする。見つめるレオは硬い表情のまま机の上で組んだ手を見つめていた。
「秀でた能力を持つだけで何故殺す必要が…?」
 エリスの質問を見越していたかのようにレオ一度目を閉じた。彼自身、その説明だけでは不十分だと理解していた。
「確かに、ただ秀でた能力を持つだけなら殺されたりはしない。でも彼らの能力には一般的に黒魔法や魔力と呼ばれるものが必ず含まれてるんだ。そんな奴を生かしておいたら、国どころか世界が滅んでしまう危険がある」
 その説明に納得したようにエリスが顎を引く。黒魔法も魔力も術者や周囲に良くない影響を多大に与えるため、基本的にタブーとされている。軽い黒魔法であっても使用するには様々な手順や規則に則らなければならない。
 納得すると同時に、エリスは中に何か嫌な予感めいたものを感じていた。異端児の話になる少し前から見え隠れしていたものが、ヒタリ、ヒタリと近づいてくる気がする。そんな彼女の不安を他所に、レオは話を続ける。
「だからこそ異端児は生まれてすぐ、まだ何の危害も加えない内に始末しなければならないし実際にそうされてきた、ヴォルドヴェラが生まれるまでは」
 机の上で組まれたレオの手がギシ、と音が聞こえそうなほど強く握りこまれる。あまりの力の強さに手が震えているように見えた。その表情にはくっきりと眉間に皺が刻まれ、瞳はきつく閉ざされていた。
 一方のエリスも短く息を呑み言葉を失っていた。ヴォルドヴェラの話から異端児のことが出てきたことを考えて、うっすらと予想はしていたが、いざ告げられると驚きと不安が隠せない。世界の様々な場所で村や町を襲っているのが、世界を滅ぼしかねないほどの力を持ったルノア族の異端児。そしてファルトは、そんな人物をどうしようと言うのか…。知らず、エリスの喉がゴクリ、と鳴る。
「奴も生まれてすぐ殺されるはずだった。学者や星見は既に予見していたし、痣も確認された。すぐに密令が下って数日の内に全て終わるはずだった」
 途中、苦しそうに眉間の皺を深くする。声色もどこか苦々しげだった。深い深呼吸の後、眉間の皺が消え、彼がゆっくりと瞳を開く。そこには先程までの激情の色はなく、代わりに哀愁と言うか、諦めに似た色が含まれていた。
「命を受けた臣下が情けない奴でね、殺せなかったんだ。で、そのまま森に置き去りにしたらしい。そのまま時が流れ、1年程後に国王の知れるところとなり大激怒。その臣下は勿論殺されたが、ヴォルドヴェラは既に連れ去られた後だった」
 これが奴があの国の王になった経緯、と重くなった雰囲気を和らげるようにおどけたような口調で締める。しかしどこかぎこちなく、彼がどこが無理をしているのがエリスにもわかった。
「あの、一つお聞きしてもいいですか?」
 レオは話を締めたが、エリスには理解しきれない部分があるらしく、戸惑いがちに彷徨っていた視線をレオに向け、少し控えめに訊ねる。レオはそれに快く答える。
「俺に答えられることであれば」
 エリスの喉元が再びコクリ、と上下した。先程の内容までデヴォルドヴェラのことは全てのはずだ。なのに何故だろう、先程から感じる嫌な予感が、未だに消えずに胸を燻っている。そしてそれは、何故ファルトがヴォルドヴェラを追っているのかと考えると、更に強くなった。
「ヴォルドヴェラの、彼の本来の国は…?」
 思った以上に擦れた己の声に内心驚いたが、そんなことに構っている余裕はなかった。エリスの言葉にピクリと反応したレオの片眉に嫌な予感が膨れ上がる。レオは、言いよどんでいるのか、口を横に引き結んだまま難しい顔をしている。その重くなった口から紡がれる言葉を聞き逃すまいと耳を傾け、固唾を呑んで見守る。やがてその口から溜め息が漏れ、ようやくレオが意を決したように息を吸った。

「奴の、本来の国は……」



で、寸止めー。 今更ながらに「異端児」を別の呼び名つければ良かったな、と反省。 関係ない造語作ってるんだからその位しろよ、と自分に言いたい。 あと実は黒魔法も魔力もほぼ同意語だったりする。 正確に言えば、黒魔法を使うための力が魔力。 他の魔法を使うための力が魔法力。 『特別な』白魔法を使うための力が聖力(しょうりき)。
章先頭へ 前の話へ 次の章へ
▲ページ先頭へ▲