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Land Traveler - 第3章 - 7話

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 森でルティアと別れてから数日後、四人は近付いてくるトロルの気配を感じ、街から少しばかり離れた平原の上空にいた。北東に視線を移すと遠くに黒い靄のような塊が見える。確実にこちらに向かってくるそれに改めて身を引き締めた。
「レイラ」
「大丈夫ですよ。お手並み拝見ぐらいの気持ちでいてくださいな」
 戦えるか、と聞こうとしたファルトの言葉を遮ってレイラは自信たっぷりといった様子だ。それを見て要らぬ心配だったかとファルトが薄く口角を上げる。その横でレオマイルが剣の柄に手を置いた。

 街から三十kmほど離れたところで飛竜を止めた。先程見えた黒い靄のようなものは今ははっきりとその姿を捉えることができる。ザッと見て七十ほどの集団。その数を見てレオマイルは「うげ」と顔を歪めた。
「観光ツアーかっての」
「ツアーでもあれほど多くはあるまい」
 ウンザリとした声だった。レオマイルに呆れたのかはたまた向かってくる黒い集団に呆れたのか、ファルトも呆れた様子で答える。盛大なため息をついてレオマイルが頭を搔いた。
「あーあ。あれ全部美人さんだったら大歓迎なんだけどなぁ…」
 とても残念そうな声音だった。レオマイルのその言葉にファルトからこれでもかというほど盛大な溜め息が漏れた。
「あの…そういった問題ではない気がするのですが……」
 とても言い難そうにアクエリアが口を挿む。その声に促されて視線を戻すと、すぐそこまで集団が近付いていた。それを見たファルトが剣を召喚する。その横ではレイラが宙に魔法陣を描き始めていた。
「何ならお前一人でいくか?レオ。案外メスかもしれんぞ?」
 手の内で剣を鳴らしたファルトが心底馬鹿にした顔をしてそんなことを言う。それにレオマイルは再び顔を歪めた。
「冗談っ。誰がモンスターの雌なんか」
 言葉と同時に掴んだ剣を鞘から抜いて敵に向かって天馬を走らせる。天馬の嘶きが高く響く。その彼の後を追うようにレイラの手から作り出された魔法陣から無数の蛇のような炎が放たれ、敵に牙を剥いた。後方にいた敵が炎蛇に触れ、呻き声と共に地に落ちて行く。何とはなしにその様子を追ったアクエリアはそこで、下にも敵がいる事に気付いた。顔を上げ、ファルトを呼び止める。
「下へ行っています」
 返事を待たずに飛竜の手綱を切った。ファルトはその先にいる敵の状況を見る。その数を把握し、アクエリア一人で大丈夫だろうと判断すると、自分は空中で戦っているレオマイル達に加勢していった。





「ねぇ、どれがファルトって奴?」
 ファルト達が戦っている少し離れた場所で、四人の様子を見ている人物が二人いた。ヴォルドヴェラにファルトたちの件を任され、先日ルティアの森の外に現れたライとミレディアである。二人、特にミレディアはまずは相手の実力を探るべく自分達の手下と戦わせていた。ライが、戦っている四人のうちの上空で飛竜に跨っている一人を指で示す。
「あいつだ。青い飛竜に乗っているだろう」
「ふーん…。まぁ、顔はいい方じゃない?」
 独り言のつもりだった。しかし隣からジロリ、と伏し目がちに睨まれる。肩を竦めわずかに舌を出しておどけて見せた。そして取り繕うように改めて群れの中に視線を移す。
「でもこのままじゃすぐ片付いちゃうわよ?」
 どうするつもり?と挑発的な視線をライに向ける。空中で戦っている手下はあっという間に数が減っている。全滅するのは時間の問題だった。ライは煽るようなミレディアの視線を軽く受け流しファルトたちの下方に視線を移す。そこにはトロルやドワーフと言った、飛べない手下たちと戦っているアクエリアの姿があった。
「あいつがケミル族の奴か…。片方の事しか調べられなかったし丁度いい。あいつから様子を見るか…」
 そう決めると、何かブツブツと魔法を唱え始めた。すぐに風が巻き起こり、ライの短かく切った黒髪を揺らす。魔法を完成させると、それをアクエリアが戦っている所へと放った。その黒い球になった魔法に触れたモンスター達が一回りほど大きくなる。遠巻きにもそれが十分にわかった。
「どうするかしらね」
 さも可笑しそうに、そして楽しそうに話す。ライも鼻で嘲笑った。
「さぁな。ま、死んだらそれまでだがな」
 先ほどの風で乱れたのか、短い髪を掻き上げる。そのまま空中で座るような姿勢を取ると、再び戦っている四人に視線を向けた。





 ライの魔法によって大きくなったモンスター達は、更に勢いを増してアクエリアに襲いかかる。急に大きくなり、強さまで増した敵にアクエリアが驚いた。これまで順調に数を減らしていたが、このままでは一人では処理しきれそうにない。今から魔法を組み直すには、敵との距離が近すぎた。明らかに急転換し、悪化した状況にく、と奥歯を噛みしめる。
 その時、上空から声がかかる。
「大丈夫か」
 見上げると状況に気付いたのか、ファルトがアクエリアの元に降りてくるところだった。地面近くまで下降すると蒼から飛び降り、彼女に近付く。
「申し訳ありません……上のほうは?」
「もう二人だけで大丈夫だろう」
 見上げるとアクエリアが降りてきた時よりも随分と敵の数が減っていた。数にしておよそ二十ほど、確かに二人で十分だろう。
 再び視線を前方に移すとトロルが数体、すぐ近くまで迫ってきていた、魔法の力を得てか、大きさの割にその動きは素早い。更にその後ろにはそれらよりは僅かばかり小振りなトロルやドワーフが付いてきていた。それを正面に捉え、ファルトは右手の中指と人差し指を立てて構える。
「残った奴らを始末しろ」
 短かくアクエリアに命令をすると何かの呪文を唱え、構えた指の先から現れた蒼白い光で自分の目の前に円を描く。更にその中に五芒星を描くと、紡いだ言葉が形となってその周りを縁取り、魔法陣を形作った。
「九水龍招来」
 静かに告げた言葉とは対象的に、差し出す右手の先にできた魔法陣から勢いよく水が飛び出す。それは九つの蛇のような体を持つ龍へと姿を変え、鋭利な武器となってトロルの身体を傷付け、ドワーフを切り刻んでいく。しかし、所詮は水からできたもの、段々とその威力を弱め、後方に届く前に全ての龍が姿を消した。その瞬間を見計らい、アクエリアが呪文を完成させる。繰り出された破壊魔法はファルトの魔法から逃れたモンスターのほぼ全てのものを呑み込んだ。こうして地上での戦いは収束を迎える。辺りを見渡し、他に敵がいないことを確認して上を見上げる。ちょうどレイラが放った魔法がモンスターを呑み込み、上での戦いも終わりを迎えるところだった。




「大丈夫か?」
 ファルト達の元へ降り立ち、天馬から降りたレオマイルが口火を切る。その傍らで召喚した剣を消しながらファルトが「あぁ」と短く答えた。レオマイルがアクエリアに顔を向けると彼女も何も言わずに首を縦に振る。
「何だったんだ?さっきの」
 急にモンスターが大きくなり、凶暴になったことをレオマイルが訝しむ。それに答えたのはレイラだった。
「確か、黒魔法の中に似たようなものがあった気がします。おそらくそれで……ファルト様?」
 口元に手を当て、片隅の記憶を思い出しているようであった。その言葉を途切れさせるほどの勢いでファルトが後ろを振り返る。他の三人も何事かと彼に従った。そのまま上空を睨みつけるように見上げる。そこには先ほどの魔法をモンスターに放った男とその隣にいた女がいた。


「あら、気付いちゃったわよ」
 きょとん、とした顔をしてミレディアが呟いた。視線の先ではファルトがこちらを睨みつけ、他の三人も驚いた様子で見上げている。
「やっぱり兄弟なのね~。ヴォル様と一緒で綺麗な血の色だわ、あの瞳」
 返事をせずにいると、くれないかしら、とファルトの瞳だけを視線に捕らえながらうっとりと呟く。恍惚とした様子で今にも行動に移しそうなミレディアにライが釘を刺す。
「今回は様子見だと言っただろう。せめて次にしろ」
 冷静なその声に非難の声を上げるが、すぐに「仕方ないわねぇ」とそれに同意した。そしてそのまま、二人はファルト達に何をすることもなく空間を捻じ曲げて消えていった。


「何だったんでしょう、あの二人…」
 二人が消えていった空間を見上げながら、アクエリアがポツリと呟いた。さぁ、とレオマイルが首を傾げる横でファルトが一度目を伏せ、そのきつくなった眼差しを解く。三人に顔を向け口を開いた。
「デコルヴィザードの手の者だろう。……今回は小手調べといったところか…」
 顎に手を当て、何かを考え込む。その思考をレオマイルの呑気とも言える口調が遮った。
「ま、ここで考えても仕方ねぇだろ?どっか街に行こうぜ」
 そう言ってさっさと天馬に跨ると、手綱を取って空へと飛び出す。それを見たファルトが呆れたように溜め息を吐くと、己の飛竜の手綱を掴む。アクエリアもそれに従い、レイラはその姿を光の玉へと変えて飛び上がる。

 西からの日が、赤々と大地を照らしていた。



ミレディア+ライとの初対面でしたー。 と言っても会話はしていないけど。 最近ミレディアちゃんってネクロフィリアの嫌いがある気がしてなりません。。。 おかしいな、ただのヴォル様ラブな子だったはずなのに。
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