1. ホーム
  2. MAINページ
  3. Land Traveler
  4. 第2章
  5. 3話

Land Traveler - 第2章 - 3話

章先頭へ 前の話へ 次の章へ
縦書き
 書庫には目当てのものがなかったのか、ファルトは更に奥に足を進めていた。その先には城の中にしては少し大げさとも思える重厚な作りの扉。そしてその両脇に控える衛兵の姿があった。彼らは一歩一歩確実に近づいてくるファルトに眉一つ動かさない。
 やがて扉の前にファルトが辿り着く。そのまま扉に手をかけ、その先へ進もうとするファルトの目の前で左右から現れた槍が交差し、行く手を阻む。ちらりと横に視線をやると、無表情のままの兵が手とその先にある槍を横に倒していた。
「これより先は王族の方のみとなっております」
 「申し訳ありません」と毅然と、しかしどこかぞんざいに言な兵の態度にムッとしながらも何か言おうと口を開いた時だった。

「お通しせよ」
 後ろから聞こえた声にファルトが振り返り、兵たちも顔を上げ声が聞こえたほうを見やった。コツコツと硬い音を響かせて彼らの元にやってきたのは、街でレオマイルに付き従っていた者だった。
「レオマイル様の命だ」
「…っ。しかし、ここから先は王種族の方か、クラルケルタ(王宮学者)の方しか…」
 突如現れた従者と国の皇子の名にたじろぐものの、己の職務を投げ出すわけにはいかないと、下ろした槍を戻さずに言い連ねる。従者の口から出たのは第六皇子の名、対してここに衛兵を配置したのはこの国の王であり、どちらの命令を優先させるかなど一目瞭然であった。
「この方は…」
 兵士の言葉に従者が焦ったように発した言葉をファルとが片手で制す。他の者の視線が自分に集まっているのを感じながら、その手を己の顔に当てるとそのまま前髪を持ち上げた。
「…これで満足か?」
 掻き上げられた前髪から覗く瞳の色を確認した兵士が大慌てで謝罪とともに手にしていた槍を上に向けた。それに満足したように鼻を鳴らすと、掻き上げた手を戻しファルトは再び扉に手をかけ中へと進んだ。

「お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
 中に入ろうとしたファルトに後ろから声がかかる。その声にちらりと視線をやると、深く礼をした従者と兵士の姿があった。それに頷くように目を伏せ、ファルトはそのまま扉の奥へ向かっていった。




 部屋の中には窓すらないのか、暗く埃っぽい臭いがした。ファルトが小さく呪文を唱えると指先に光が現れ、それは手のひらほどの大きさになった。その光をかざし、扉のすぐ側の棚に置かれていた手燭を見つけると今度はそれに向かって呪文を唱える。ぽっと蝋燭に火がともったかと思うと、それに呼応するように壁に備え付けられていた他の蝋燭にも次々と火がともり、然程大きくはないその部屋はあっという間に部屋全体が明るくなった。自ら火を灯した手燭を持つと、明るくなったことで見つけた窓に手を掛け、空気を入れ替える。夕暮れ時の赤々とした日差しと爽やかな風が一気に流れ込んできた。 窓はそのままに、先ほどと同じように数冊の本を手にすると、手燭を手短なところへ置き、再び漁り始める。

 やはり先程と同様、何冊も本を読んでは戻しを繰り返していたファルトが、一度ピタリとその手を止めた。そのまま暫く文字を辿りページを捲っていたがいつしか完全にその動きを止めてしまう。ただ淡々と文字を追っていた瞳が見開かれ、常の彼には無いほどになる。止めたはずの指先がいつしか小刻みに震えていた。
「まさか…そんな事が……」
 驚愕に目を見開いたまま、ようやくといったように呟いた。見開かれた視線こそ開いたままの本に向けられているが、瞳は何も見えてはいないようだった。

 少しして我に返ったのか、落ち着きを取り戻したファルトは一度目を閉じ、本に乗せていた手を握り締め、その震えを止めた。再び目を開いたその表情に先程のような驚きは見られない。緩慢な動きで懐から取り出した羊皮紙に何事かを書き留めると本を閉じ、他の出したままにしてあった本と共に元の位置に戻す。すべてしまい終えると、空いた手をそのまま壁に振り下ろした。ガンっと強い音が部屋に響いた。壁に置かれたままの腕にゆっくりと額を乗せ、何かに耐えるように目をつぶる。置かれたままの手燭がカタカタと鳴り、影を揺らめかせた。
 いっそう強く握り締めた拳が、その力の強さに震える。
「一体、どうすれば……?」
 呻くような呟きは、誰に聞かれること無く風によって流されていった。



クラルケルタ … 括弧書きにもしたけど王宮仕えの学者の総称です。 正確にはCul Ar Kelta (クル=アー=ケルタ)「ケルタ」が学者。 天文学だったり歴史学だったり魔法学だったり人によっていろんな研究をしています。 ただし変人が多いという噂もあり …どの世界も似たようなもんです ちなみに1箇所火を灯しただけで他の燭台も点いたのは元々そこに魔法がかかっていたからです。 この世界ではよくある仕掛けの一つです。 ただ、言い方が和風っぽくてなぁ。。。 あと明るくって言っても所詮蝋燭の明かりだからたかが知れてるよね。
章先頭へ 前の話へ 次の章へ
▲ページ先頭へ▲