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Land Traveler - 第4章 - 2話

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 嵐の中を抜け、開けた視界に見えたのは、何とも不気味な島だった。すぐに身を隠せそうな場所を探し着地する。嵐の中で負った傷は、そこでアクエリアが魔法で治療した。その間に手が空いた者が辺りを見回る。
「しっかし……。ここがウィズデリアか…。辛気臭ぇトコだなぁ」
 改めて眺めるとその不気味さを実感する。デコボコとした荒野が広がり、枯れた木々が僅かに残るばかりで緑など見当たらない。勿論、生き物の気配などするはずもなかった。
着地した場所は、身を隠すと言ってもこころなし土地が窪んであり、枯れ木があるだけで、隠れてるとは到底言えそうもない状態だった。

 アクエリアによる治療が終わったところで、今後の予定を立てるためにその場に集まって腰を下ろす。木々がないおかげで島の全体がわかりやすく、それだけが幸いだった。

 しばらく話を進めていた時、口を動かしていたファルトが険しい顔をして動きを止めた。
「…いい加減、姿を現したらどうだ?」
 常よりも更にきつい口調で上空を睨みつける。他の者たちも彼の視線の先に目を向ける。そこには何も見当たらない。しかし、確かに何らかの気配が感じられた。決して良いものとは言えないそれに三人も険しい視線を向ける。すると、何もないはずのその空間がぐにゃりと歪み、そこからライとミレディアが姿を現した。
「何者だ、貴様達は」
 突如何もないところから現れた二人に驚くこともなく、ファルトは毅然とした顔で訊ねる。ライとミレディアはそれには答えず、四人を見下ろしたまま二言三言言葉を交わす。
「何者だ!?」
 先程よりも強い口調で問い質した。すると張り上げられたその声に値踏みするように二人がファルトを見つめる。そうしてしばらく無言の応酬が続いた後、ライがゆっくりと口を開いた。
「…四天王が一人、ライ」
「同じく、ミレディア」
 さほど大きな声ではなかったが、その声はしっかりと四人に届いた。黒い短い髪と、くすんだ赤い瞳を持つライが無表情で告げたのに対し、ミレディアはさも楽しそうに金の瞳を輝かせ、腰よりも少し上ほどまである金色の筋が入った茶色の髪を右肩の辺りで払ってみせる。
「早速なんだけどぉ、お土産があるの、受け取ってぇ?」
 次の瞬間、四人を取り囲むように周りの空間が歪み、そこから大量のモンスターが襲いかかってきた。島に来るまではドワーフやトロルを中心としたせいぜい中型までしかいなかったそれらも、今回は敵の本拠地ということもあってか、ドラゴンのような大型のものも多数いた。それら全てが濁流のように四人に牙を向けてくる。
 突然の出来事に慌てて武器を手に持ち体制を整える。ライたちに言葉を向ける余裕などなかった。
 以前までとは違い、トロルやドワーフたちは頑丈そうな鎧を見に纏っていた。そのせいで一体を倒すのに時間がかかってしまう。出来るだけ急所を狙い攻撃を仕掛けているが、それでも思うように数が減らない。ジリジリと距離が縮まり、後ろに控える敵は歪んだままの空間から際限なく溢れ、減るどころか増える一方に思えた。そして何より、一個体の持つ力が明らかに増している。魔法を使うものまで出てくる有様だった。
終わりの見えないそれらにファルトは忌々しそうに小さく舌打ちをした。
「レイラ」
 近くにいたレイラが、敵に応戦しながらも返事をして耳を傾ける。ファルトも近くのモンスターを薙ぎ払いながら続けた。
「しばらくお前たちに任せる。死にたくなかったら魔法陣を創り二人を連れてその中に入れ。タイミングはレオが知ってる」
 そう言うや否や、ファルトは近くにいたモンスター数体を倒してすと片膝を地面に付いてしゃがみ込んだ。左手をピッタリと地面に付け、右手はそれに添えるような形で左手の甲に指先だけを触れさせている。そのままの体制で静かに呪文詠唱を始めたファルトにレイラが戸惑いの表情を浮かべて立ち尽くした。すると、二人の様子に気付いたレオマイルが声を張り上げた。
「レイラ!早く防護壁創れ!!」
 敵を倒しながらの荒々しいその声に我に返ったレイラは、訳がわからないものも、近づいてきた敵を倒し、新たに魔法陣を描く。ファルトを窺うと、添えていた右手の手の内から蒼白い光が漏れている。それがどんな魔法なのか、想像も付かない。アクエリアとレイラはファルトが欠けたことで増えた負担に悪戦苦闘しながらもファルトの様子を窺っている。レオマイルは、二人とは違った意味でファルトを注視していた。

 ファルトが、左手に添えていた右手を、ゆっくりと肩の位置近くまで持ち上げる。光はいつの間にか直径三十センチほどの球体になっていた。それを確認すると、レオマイルが二人の名を叫ぶように呼んだ。
「早く魔法陣の中へ!!」
 その声に我に返り、二人は大慌てでレイラの創った魔法陣の中へと滑り込む。二人の行動を確認してすぐにレオマイルもそこへ入り込んだ。三人が魔法陣に入ったことでモンスターの攻撃は彼らに通用しなくなる。そうするとその標的になるのは当然、一人残されたファルトへ変わる。
「ファルト様!」
 そのことに気付いたアクエリアがファルトを助けようと魔法陣から出ようとする。しかし、境界にできた見えない壁に阻まれ、外に出ることはおろか、手を伸ばすことさえできない。バッと音がしそうな勢いで振り返った。その顔は、一直線に魔法陣を創りあげたレイラに向けられていた。剣呑な雰囲気を纏った彼女に、当のレイラも困ったように顔を歪める。彼女としても、ファルトの指示に従ったまでであり、どうすることもできない。そんな二人を宥めるようにレオマイルが二人の間に割って入った。
「大丈夫だから。まぁ、見てな」
 慌てふためく二人をよそに、余裕そうな表情でただじっとファルトを見守る。そのファルトは、未だに地面に片膝をついたままの体制を崩していない。レイラに指示を出した直後に創ったであろう簡単な防御用の魔法陣はもうほとんどその効果を失って亀裂が走っていた。
 その時、パァン、と甲高い音を立ててその魔法陣が弾けるように壊れた。すぐさまファルトへ、四方から一斉に剣や斧、モンスターの牙が、爪が、そして魔法が襲いかかる。
「ファルト様!!!」
 アクエリアの悲鳴に近い叫び声が響いた。



島について早々戦闘です。 ついでに寸止めでーす。 思った以上に長くなったので区切りました。 モンスターに独自の名前付けても良いんですけど、説明が長くなりそうなので省いています。 でも何故か推敲前に「グリズリー」って書いてありました。 それただの熊です、はい。。。
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