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Land Traveler - 第5章 - 12話

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 一方ファルトとディオクレイアの闘いは激しさを増していた。互いに剣術と魔法を駆使し、相手を追い詰めようと策を巡らす。消耗戦に転じてきている事は2人とも気付いてはいるが、ここで手を緩めてしまえば一気に畳み掛けられる。悪策とわかっていても続けるしかなかった。その中でなんとか状況を打開できないかと考え、その手がかりはないかと辺りを見渡す。

 襲ってきた氷礫を叩き落としてディオクレイアが舌打ちをした。その額にじんわりと汗が滲む。戦闘が始まった時よりも呼吸が上がってきている。対するファルトは相変わらず平然と攻撃を繰り出してくる。このままでは体力の差がそのまま決着に結びついてしまうだろう。この均衡を崩して優勢に転じたいが、ファルトにそんな隙ができる気配等微塵も感じられなかった。
 イライラとしながらも、延びてきた切っ先に身体を反らす。その時、踏み直した右脚を闘いによって崩れた柱の残骸に捕られた。
(しまっ…!!)
 バランスを崩した身体が大きく右へと傾ぐ。そんな絶好のチャンスを逃すファルトではない。畳み掛けるように次々と魔法がディオクレイアに襲いかかる。慌てて防御魔法を紡ぐが、焦って創り出したそれでは全てを防ぎきることはできなかった。
 ファルトの手から放たれたうち、半分ほどの魔法がディオクレイアを傷付ける。衣服が裂け、皮膚から血が滲み出る。しかし、それに構ってなどいられない。傾いだ体勢を立て直し、すぐに創り出した炎をファルトに向けて放つ。闇を纏ったそれは、ファイトに先程のレオマイルの事を想起させた。十分な距離を保ってそれを避けると、次の手が来る前に新たな魔法をディオクレイアに向けた。再び大量の氷の刃が出現し、一気にディオクレイアへと襲いかかる。それを出来うる限り避け、それでも残ったものを剣で砕き落とした。
 粉々になった氷がガラスの破片のように辺り一面に散らばる。それでもなお絶え間なく氷は彼女を襲う。炎で相殺できればと思うが、どういった構成か、溶けるどころか炎さえ突き抜けてしまうのは戦いが始まって直ぐに知った。剣で砕き、魔法で防ぐ事を繰り返していたディオクレイアであったが、ついに勢いに負けて膝が折れた。
 彼女の頭上に人の頭程はある氷の塊が迫り来る。それを剣で叩き落とすと、付いた膝と腕を支点に滑るようにファルトの繰り出す魔法の及ぶ範囲から逃れた。再び氷塊が降り注ぐ前に反撃に転じようと足に力を篭めた瞬間、ディオクレイアから声にならない叫びが上がった。
 力を篭めたその足の甲に突き刺さる水柱。氷ではない。「水」が突き刺さっているのだ。驚き動かないディオクレイアをよそに、踏み締めていた地面に描かれていた魔法陣から光が消え、それとともに水柱も嘘のようにただの水へと還っていく。貫かれた足から流れる血でだんだんと床が染まる。痛みは引かない、それどころか足先の感覚がなく力が入らない。
(呻くな、考えろ)
 漏れ出そうになる叫びを懸命に堪え、痛み以外の感覚が消えた脚を抱え必死に考えを巡らす。この脚では剣での応戦はほぼできない。攻撃手段が魔法一択となればこちらの動きを読む事など容易いだろう。その状態でどう戦えば勝てるか…?



 ディオクレイアが獣のような低い呻き声をあげている間に、ゆっくりとファルトが近づく。気配に気付いたのか、俯いたままのディオクレイアの肩がピクリと揺れた。同時にファルトは首筋にピリと電気が走ったような違和感を覚えた。
 慌てて距離を取った直後、今までファルトが立っていた地面がゴポリと音を立てて波打った。更に二、三歩距離を取る。気付かないうちにディオクレイアを中心に円が描かれていた。赤黒い線で描かれた魔法陣にその正体を知る。
 血紋陣———。流れ出る血に己の魔力を込めて魔法陣を描く魔法。強力な魔法が多い一方で、血液も魔力も大量に必要となる諸刃の魔法。あの状態でそれを使うとは。
 咄嗟にディオクレイアに目を向ける。既にこと切れているのか、ピクリとも動かないまま、喚び出したそれにゆっくりと呑み込まれていく。虚ろに開いたその眼が、完全に呑まれる瞬間、ファルトを見て嘲笑った気がした。
(端からそのつもりか…)
 足を貫かれ、容易に動けなくなった時点で既に生き残る道は捨てたのかもしれない。見上げるほどの忠誠心に表情が歪んだ。
 魔法陣は尚もゴポリ、ドプリと床を揺らめかせながらディオクレイアを呑み込むばかりで、一向にこちらへの動きがない。魔力が足りなかったか、彼女を身体ごと取り込んで魔力を糧にするつもりなのだろう。ならばファルトのやることはただ1つ。彼女を呑み込みこちらに向かってくる前に魔法陣を壊すだけだ。
 ファルトはすぐさま血紋陣を覆う程の大きさの魔法陣を血紋陣の上空に宙に創り出した。できた魔法陣からはそれと同じ大きさの水球が現れ、そのまま血紋陣を上からすっぽりと覆った。透明な水の中で血紋陣が描かれた地面がぐにゃりと動く。やがて陣だけが地面から剥がれ、水の中で不規則に形を変えるようになるとファルトは何か呟きながら魔法陣に向けて翳していた手で空中に何か描き始めた。すると、血紋陣を中に含んだまま、水が再び宙に浮いた。完全に地面から離れ、見上げる程の高さまで上がると、外側からパキパキと音を立てて凍り始める。中の陣は水から出ようとしてか、時折表面に向かって伸びるが、その膜を破る事はできず、水が完全に氷に変わってしまうとピクリとも動かなくなった。



命と引き換えに喚び出したモノもあっさりと消しちゃってごめんね、ディオクレイア…。 でもこうでもしないとどんどん長くなっちゃうからさ……
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