章先頭へ
前の話へ
次の話へ
次の章へ
縦書き
日が昇り、その光を浴びて暖かくなり始めた城の庭に目を向ける。未だ日の当たらない壁際に残る雪も、あと数日もすればきっと融けてなくなる。そうすればあっという間にこの北の地にも夏が来る。彼はそれまでに戻ってくるだろうか。
「…戻って、来ないかもしれないよ?」
まるで心を見透かしたようなタイミングでレオマイルが尋ねてきた。それでも行くのかい?と言外に匂わせた表情にエリスは少し戸惑うように目を伏せた。不安がないと言えば嘘になる。現にこのひと月、『彼』が来たらと知らせをとキールに頼んだが、その連絡は一切ない。表情を曇らす彼女の脳裏に、ふとウィズデリアでの夜にファルトと交わした会話が蘇った。その時のファルトの言葉が、波立った胸をすっと落ち着かせる。
「それでも、待ちます。…約束、しましたから」
しっかりと目を見つめ返したエリスの表情に、レオマイルは眩しいものを見つめるように目を細めた。
「そうか…」
彼女の言うその「約束」がきちんと果たされるように、そう願いを込めて微笑むと、ゆっくりと頷いて見せた。見つめた彼女の瞳に不安な色は見えず、約束が果たされることをどこかで確信しているようだった。
交わった視線を外して2人、窓枠に区切られた空を見上げる。広がる街並みの奥、日の光を受けて輝く青白い物を見た気がした。
fin.
お疲れさまでした、これにてトラベラー完結です!
長かった…っ!
そして自分、よく投げ出さなかった!
章先頭へ
前の話へ
次の話へ
次の章へ