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夜、ファルトは横になったまま空を見上げていた。もちろん、雲に覆われて星も月も見えはしない。それでもただぼんやりと宙を見えげる。しばらくそうした後、おもむろに上半身を起こした。
「眠れませんか?」
突然、隣から声をかけられた。声のした方に顔を向けると、ちょうどアクエリアが同じように起き上がるところだった。
「起こしたか?」
「いえ、眠れなかったので」
苦笑を浮かべてファルトが見つめていた空を見上げる。
「空、暗いですね」
夜なんで当たり前ですけど、とファルトが思っていたことと同じことを口にした。「そうだな」と答えることしかできず、押し黙る。一方のアクエリアも何を言うわけもなく、ただ静かな時が流れた。
「殺すのですか?…ヴォルドヴェラを…」
ポツリ、とこぼした。見上げていたはずの顔は、いつの間にかファルトに向けられていた。
「失敗するとでも?」
怒った様子はなかった。返された問いが暗にアクエリアの質問を肯定していた。ファルトの問いにアクエリアが首を横に振る。
「いえ、そうは思いません。ですが、その、初めてお会いになられるのでしょう?…ヴォルドヴェラ……いえ、お兄様と」
「兄…か……」
アクエリアの『兄』という言葉に、ファルトが黙った。その様子をただ静かに見つめる。視界の端で、絶やすことなく燃やしている炎が一つ、大きく爆ぜた。
「奴が兄だという自覚がないのが事実だな。あったことも、無論話したこともない。まぁ子供の頃は何かと意識したこともあったが。今では、どうでもよくなる時も、ある」
小さく爆ぜる炎を眺めながら静かに告げる。今まで誰にも告げなかったであろうその本音を、アクエリアはしっかりと受け止める。
「…決着が着いたら如何なされるのですか?」
実際、決着が着くのかもわからない。着いた後、自分たちがどういう状況なのかなど、想像もつかない。良くて相打ちだろうか。小さな傷一つつけられないなどということはないと信じたい。それでも聞いてみたかった。
「ヘラザードへは戻られるのですか?」
たとえ望みが薄くとも、それを捨てたくはない。先のことを訊ねることで己の中の不安を押し込めていた。
「国に戻るつもりはない。そうだな…今のように旅を続けるつもりだ。…それがどうかしたのか?」
ずっと炎を見つめていたファルトがアクエリアに視線を移す。彼の瞳には強い意思が宿るだけで迷いの色は一切見られない。その色を見つめるだけで胸の内を巣食う不安が消えていくようだった。
「いえ。ただ、どうなさるのかなぁ、と」
訊いた内容にあまり意味はなかった。強いて言うなら、ここを終の場所と考えていないことを確かめたかったのかもしれない。
苦笑いを浮かべるアクエリアにファルトがため息を吐いた。その顔には飽きれた表情が浮かんでいる。
「どうせ断っても付いてくる気だろう?」
ファルトの言葉にアクエリアの表情が固まった。すぐにファルトの言ったことを理解したアクエリアは恐る恐るといった様子でたずねる。
「宜しい、の、…ですか……?」
「勝手にしろ」
薄く笑ったファルトは、それだけを口にするとアクエリアの返事も待たずに体を横たえる。
「寝る、…起こすなよ」
「ハ、ハイ!!」
有無をも言わさずに寝入ってしまったファルトは少しすると本当に静かな寝息を立て始めた。
その傍で、アクエリアは彼に言われた言葉を思い出しては、一人顔を綻ばせていた。
そしてそんな二人のやり取りをニヤニヤしながらレオが聞き耳を立ててました。
きっとそんな感じだと思います。
翌日揶揄うかどうかは気分次第。
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