1. ホーム
  2. MAINページ
  3. Land Traveler
  4. 第2章
  5. 1話

Land Traveler - 第2章 - 1話

章先頭へ 前の話へ 次の章へ
縦書き
 城に着いた二人はレオマイルによって客間ではなく、彼自身の私室へと案内された。そこにあったソファに二人を座らせ、小間使いに飲み物を持ってくるように言う。先ほどまで彼に従っていた従者は、城に入ってしばらくもしない内に二人に一礼して去って行った。間もなくしてワゴンを引いた小間使いによって、二人の前に紅茶が出される。このような場所に通されたことが無いのか、エリスが戸惑っていると、隣に座ったファルトが、自分の前に置かれたカップを取りながら口を開いた。
「心配せずとも毒など入っていない」
 こいつにそんな度胸などない、と言って目を閉じて悠々と紅茶に口をつけるファルトをエリスは驚いた顔で見る。そんなつもりで戸惑ったわけではないと否定しようとした彼女の目の端で、レオマイルが口元を僅かに引きつらせるのが見えた。
「お前なぁ…、人がせっかくお前の好みに合わせてやったってのに…。何だその言いようは」
 青筋を僅かに浮かべながら言うレオマイルに、ファルトは澄ましてフンと鼻を鳴らすばかりでレオマイルに視線を送ることすらしない。その様子に呆れたように溜め息を吐くとレオマイルは机の角に体重をかけた。そんな二人の慣れた様子を見て緊張が解けたのかくすくすと笑うと、「では、頂かせていただきます」と言ってカップに口を付けた。

 言葉が途切れ、訪れた穏やかな静寂にエリスがホッと息を吐いた時ファルトが、スッと立ち上がった。エリスがどうしたのかと見上げ、レオマイル視線だけをファルトに向ける。
「書庫を使わせてもらうぞ」
 レオマイルの返事も待つことなく、案内をしようとした小間使いも断って部屋から出て行った。あっという間に閉じられた扉に慌ててエリス後を追おうとする。開けた扉の向こうでは既にファルトが離れた先の廊下を曲がっていた。僅かに見えた背中が「ついて来るな」と言っているように見えて、エリスは二の足を踏む。
「まぁまぁ、あいつは一人でしたいことでもあるんだろ。放っておけばいいさ」
 エリスが慌てる一方でレオマイルは自分のカップに口を付けながら落ち着いている。初めて訪れたこの城で、既に角を曲がって彼方へ消えたファルトを見つけるのはエリスにとって難しいように思えた。
 レオマイルの言葉を背中で聞いたエリスは、小さく肩を落とすと開けた扉を丁寧に閉め、元いたソファに腰を下ろした。しかしファルトのことが気になるのか少しそわそわとして落ち着きがない。
「どうせ本を読み漁るだけだよ」
 エリスのそんな様子に苦笑しながらフォローを入れると、その言葉にようやくエリスがちらちらと扉のほうに向けていた視線を戻した。それを見て、レオマイルは改めてエリスの前に位置する椅子に腰をかけた。そのまま話をするわけでもなくただその時間を楽しむ。一方のエリスは、初対面の人と二人きりでいることに耐えられないのか、俯き所在なさそうに手にしたカップを見つめていたが、意を決したように顔を上げ、声を発した。
「あ…あのっ」
 その声にレオマイルがエリスの顔に視線を置く。そして少し首を傾げて「なんだい?」と先を促した。少しどもりながらもエリスは言葉を続けた。
「いえ…、大したことじゃ、ないんですけど…。ただ、ファルト様と仲がよろしいようなので……」
 萎縮したように語尾を萎ませ顔を下に向ける。そんなエリスの様子にレオマイルは彼女から視線を外しふ、と微笑を漏らした。その音に俯いたエリスの顔が再び上がる。
「仲がいい、か…」
 エリスには、それが自嘲しているように見えた。エリスが首を傾ける。今までのやり取りから見ても、二人の間柄が悪くないことは彼女にも見て取れた。それをなぜ自嘲するのかわからなかった。エリスの不思議そうな表情に、自嘲するのをやめ彼女に向き合うと説明を始めた。



 一方、書庫に入ったファルトはレオマイルが言ったように入り浸る気なのか、書庫の端に寄せてあった梯子を勝手に取り出し、その中腹辺りで本を取り出し読み漁っていた。この城の書庫はヘラザードにあるものよりも広く、さまざまな本がその種類毎に分別され整頓して入れられていた。その中からファルトは一冊を取り出し、ぱらぱらと捲っていた。しかしその本はファルトが普段暇つぶしに読んでいる本とは比べようもないほど厚く、どちらかと言えば調べものをする時に使用しそうなものであった。ファルトはその本を少し乱雑に棚に置くとまた別の、先ほどと同じように、いや先ほどよりもさらに厚い本を取り出し、再び読み始める。書庫にはファルト以外の人はいないようで、ファルトがページを捲る音だけがその部屋に響く。


「チッ」
 数冊を同じように繰り返した後、書庫にファルトの舌打ちの音が響く。続いて少し乱雑に本を閉じる音が聞こえる。そしてそれらを傷付けないように注意しながら元あった場所へ返す。本を仕舞った後、その手を額に当て頭を支える。
「一体、どうすればいいんだ…どうすれば……?」
 その声は誰か聞かれることもなく、暗さを増したその部屋の奥吸い込まれていった。



章が変わりました。 まぁ実際ここで変えるものか書いてる本人自信無いんですけどね ← 余談ですけど、レオマイルはこの城で居住していません。 地方にある別の城が彼の根城。 でも王子なので王城に彼の私室はあります。んで、きちんと掃除もされてます。 あと本来ならただの従者であるエリスは紅茶と座席が用意(しかも主と同席)されることはないんですが、そこはほら、レオが超フェミニストなので。 ついでに言えばやっぱりファルトの伴侶扱い(笑)
章先頭へ 前の話へ 次の章へ
▲ページ先頭へ▲