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Land Traveler - 第1章 - 4話

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出会い

 夕暮れ時になると、宿の階下の食堂も活気を帯び騒がしくなった。しかしその多くは旅の者ではなく、近くに家を構えている者たちが仕事終わりに食事がてら酒を飲みにきていた。
 店に来ているほとんどの者が顔見知りらしく、テーブルを挟んで酒を酌み交わし、どこからともなく取り出した楽器を片手に演奏する者、手拍子を取って歌う者もいた。

 そんな、明るくも騒々しい雰囲気の片隅で、眉間に皺を寄せ、重々しい空気を存分に漂わせている人物が一人、ファルトである。
 たまたま近くを通った他の客が、そのただならぬ様子に何事かと怪訝な顔をするが、ファルト自身はそんな周りの様子など意に介さず、手に持った杯を睨みつけるように見つめていた。
 そんなファルトの目の前には珍しくも白銀の髪と紫水晶に似た瞳を持つ女性が、何処か困惑したような様子で時折ファルトに視線を向けていた。そんなちぐはぐな二人が同じテーブルに座っているため、余計に目立つことになっていた。ただの相席かとも取れるが、店の中には少ないながらも空席がある。二人が連れ合いだというのは明白であった。




「エリス、と言ったか」
「は、はいっ」
 随分と長い沈黙の後おもむろに吐かれた言葉に、ファルトの目の前に座っていた女性が慌てて顔を上げる。長いこと待たされたせいか、その姿は何処か落ち着きが欠けていた。けれどその瞳は、しっかりとファルトを見つめていた。反らされることなくまっすぐに己に向けられる視線に、ファルトは盛大にため息を吐き、片手で顔半分を覆った。

「どんな事情にせよ一度認めた以上は俺が拒むことはできん…が、一度顔を見た程度の見ず知らず相手に一生を預けるつもりか?恩義を感じて等と言うのであれば必要ない。「あれ」は俺が気に入らなかっただ…」
「いいえ、これは私の意志です」
 言外に考え直せ、という言葉を含ませたファルトの科白を遮って、「それに、私の直感って当たるんです」と茶目っ気を交えて返される。目を伏せながら再び溜め息を吐きかけたファルトは、彼女の強張った口元を見て吐き出すつもりだった息を飲み込んだ。
 飲み込んだ息を溜め息とは違う形で短く吐き出すと、ファルトはテーブルからおもむろに立ち上がる。急に席を立ったファルトに周りの客が何かあったのかと興味の薄い視線を向ける。エリスはぱちくりと目を見開いてファルトを見上げていた。

「来い。ここじゃ碌に契約も結べない」
 小さく吐かれたその言葉に、エリスが驚きを喜びを混ぜた表情で立ち上がる。
 二人はそのまま、店から宿へと続く階段へ消えていった。
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