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キールに連れられて城に着くと、既に連絡を受けていたらしい城の者と魔法使いと思われる者たちがあっという間にレオマイルを運んで行った。彼はそのまま、自国であるウィルディスではなく、ヘラザードにて治療を受けることになった。かけられた魔法はかなり複雑なものであったが、魔法使いたちの力と、そして何よりレオマイル自身の体力と生命力によってこうやって再び動けるまでに回復していた。
「お身体は、もうよろしいのですか?」
朝の早い時間から出歩いても大丈夫なのか、エリスにはそれが気になっていた。一見平気そうだが、治療に当たった魔法使いや医者から、無茶はしないようにと口酸っぱく言われているのは彼女も知っている。
「あぁ、もう十分休んだよ。…まったく、医者は大げさなんだよ」
仕方がないね、とレオマイルが肩を竦める。実際、彼が部屋の中で一日中を過ごしたのは、目覚めてからの全く身動きが取れなかった数日の間だけだった。その数日も窮屈すぎて無理に動こうとし、結果痛みに呻いていたのだ。動けるようになった今、わざわざ部屋でじっとしているなど、彼にできるはずもない。
「でも、さすがにまだ寒いね」
その時風が二人の間を横切った。その冷たさに、寒さに弱いレオマイルがぶるり、と身震いをする。ヘラザードの春の朝は彼にはまだ堪えるようで、持ってきたコートに身を包むと「エリスは大丈夫?」と自分より薄着でいるエリスを心配する。
「大丈夫です。寒さには強いほうなので」
「そっか。…俺苦手なんだよね。うちの国もっと暖かいからさ」
まぁ真冬よりは随分とマシなほうだけど。そう言って苦笑する。続けて漏れ出た欠伸がうっすらと白く残った。少し眠そうなレオマイルの様子にエリスが部屋に戻るように促すと、彼はそれを手で制した。
「平気平気。なんか目ぇ覚めちゃってね。退屈だし出てきたんだ。ちょっと歩こうと思って」
一瞬襲ってきた眠気を吹き飛ばすようにうんと伸びをする。歩くとは言ったものの、思った以上の寒さに外に出るのを躊躇っているようだった。窓すら開けずに外を眺めている。その下、城の庭を兵士が数人通り過ぎていくのが見えた。列を成して行く姿に、ひと月前に1人の精霊を彼らが取り囲んだ情景が思い出された。
「…レイラ様は、無事に森へお着きになったでしょうか…?」
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