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Land Traveler - 第1章 - 6話

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ケミルコレクター。
 ケミル族の保護とその生態の調査への協力を目的とした集団、と言えば聞こえはいいが、その実態はケミル族を捕まえては金持ちに売りつける人身売買集団である。

 月の光を集めたような銀髪と、紫水晶を思わせる透き通るような明るい紫の瞳を持つケミル族。それだけでも観賞用として傍に置きたいという者が多くいるが、ケミル族の特徴はそれだけではない。

 類まれなる従者としての素質を持つ種族、それがケミル族である。領地の作物収穫状況を訊ねればその場で概算を諳んじ、詳細を1両日中に報告書として認めてくる。護衛を頼めばたとえ追われる身であろうとも堂々と街中を闊歩できる。それだけの能力を持っている上、その身体には二つの魂が宿ると言う、特異な体質までも備えている。
 「一つの身体に二つの魂」、二重人格との違いがわかり辛いが、ケミル族の者からすればまったく異なるものらしい。曰く、「生まれた時から傍にいて会話もでき、比較的自由に表層に表れることができる」らしい。そして身体的疲労が極限に達しない限り眠る必要がない。つまり室内での仕事だけなら何日も仕事を続けられ、少なくとも2人分の仕事をこなすことができる。
 これらのことからケミル族を従者として従えることは、ある一定の階級のステータスとなり、多くの者がケミル族を求めた。しかしケミル族とてそれぞれの基準で己が主となる人物を選ぶ。結果的にケミル族を求めるが手に入れられない者が多く出た。そこに目を付けたのがケミルコレクターである。
 そこかしこでケミル族を見つけては捕まえ、捕まえたケミル族を金持ちに売る。本来ならばケミル族が主導して行う契約の儀式を、彼らを脅して己が主導して執り行ってしまう事でケミル族を逃げられないようにしてしまう。そうして買い手へ高額で売り渡していた。
もちろん、ほぼ全ての国で人身売買の禁止を法で謳っており、更に多くの国でケミル族の名を出してまで禁止し、重い処罰を科しているにも拘らず売るものも買うものも後を絶たないのが現状である。
 ちなみにファルトもそうだが、各国の王族に多いルノア族では己の管理範疇を自分で管理できない者など滅んでしまえと言うほど自尊心が高いため、ケミル族に興味を持たない者が多い。何かの縁で契約を結んでいても子供の世話係など、ごく普通の仕事を任せていることが多かった。

 ファルトがケミルコレクターを知っていたのは、そういった城内で得た知識と『窓から出かけた』先での知識に因るものであるが、その辺りはまぁ割愛させていただく。
 ケミルコレクターだと見抜かれた男はひとしきり驚いた後、ファルトに商売を持ち掛けた。今までのやり取りで男に対して嫌悪感しか抱いていなかったファルトは快諾したように見せかけて男を騙し、翌日まんまとその地の領主に男を引き渡してやった。そこまでは、ファルトの思惑通り事が進んでいた。
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