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広い空間にエリスの荒い息遣いだけが響く。見下ろす視線の先にはドランの纏っていたローブが無造作に落ちている。そこから黒い霧のようなものがうっすらと立ち昇っては消えていく。
(終わっ、た…?)
巡らす視線の先に動く者は見当たらない。手にしていた剣を鞘に収め、静かに目を閉じる。アクエリアが気配を探ってもやはりモンスターのもの一つ感じられない。
呆気ない、言い換えれば手ごたえのない程の幕切れだった。
アクエリアが導き出した答えは光を用いた魔法を攻撃に組み込むという至極簡単なものだった。先のセルディスとの戦いからドランも光に弱いと見ての判断だったが、効果は覿面に現れた。
通常の攻撃を仕掛けつつ、ドランの懐まで迫った時や、隙を見てそこに光魔法を混ぜると呻き苦しみ、時に目元から白い煙が上がる程だった。もちろんドランも応戦するが、一度負傷した視界を庇いながらのそれでは先程までの余裕などある筈もなかった。
一際大きくできた隙に素早く呪文を唱えて今までよりも複雑な魔法を創り出す。青白い光を放つ綿毛のようなものが無数に現れドランを取り囲んだ。彼を指し示すように人差し指と中指を延ばした状態で手を翳す。 そのまま空中を走らせ、印を刻み魔法を完成させた。
「シュッツェフィリカ!」
ドランが動き出す前に鋭く言い放ち指を鳴らす。瞬間、ドランを囲んだ綿毛が弾けるように一斉に強い光を放った。アクエリアすら目を背けたその強さにドランから獣のような呻きが上がり、辺りに鼻を摘むような臭いが立ち込める。一瞬顔を顰めたアクエリアだったが直ぐに目を開くと、剣の柄に手をかけて未だに他より明るいそこへ走りだす。その中心では、ドランがよたよたとたたらを踏んでいた。呻き声に混じるのはアクエリアへの悪態か癒すための呪文か。
チャ、と音がして鞘から剣が僅かに外れる。ドランのその小さな身体に合わせてグ、と深く沈めた。沈んだ足と剣を持つ手に力を篭める。ドランとの距離はもうない。踏み込むと同時に鞘から抜きざまにドランに向けて剣を振り上げた。
確かに倒したはずだ。感触は確かにあった。けれど、今の状況はなんだ。床に転がるのは彼の纏っていたローブだけ。爪の先一欠片どころか血液一滴すら落ちていない。けれどその気配は既にない。
(逃げられた…?)
あの瞬間に?あれだけ負傷してて?そんなの無理だ。一つも痕跡を残さずに消えるなんてできるはずがない。
だから、倒したはず、そう言い聞かせる。それでなければきっと私にもアクエリアにも打つ手がない。
大丈夫、大丈夫ときつく自分に言い聞かせるとエリスはしっかりと先を見つめてファルトのいる最上階へと足を進めた。
ドランが死ななくて困っているシーン後半。
やっっっっと終わりました!
書いては消し、消しては書いての繰り返し、ほんと長かった・・・。
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