章先頭へ
前の話へ
次の話へ
次の章へ
縦書き
「本当になんと御礼を申して良いか…」
もう何十回と聞いた少し後ろから聞こえてくるその謝辞に、ファルトは眉間に皺を寄せ、溜め息をついた。
ここは地上から離れた空の上。キールの店から出た二人は、そのまま飛竜を使い、何処かへ向かって飛んでいた。ファルトの操る蒼の青銀色の鱗と、アクエリアの操る「ケイ」と名付けられた飛竜の羽先や尾に向けて白から朱に変わる鱗がキラキラと太陽の光を反射する。その情景は、とても美しいものであった。
アクエリアが飛竜を選んでいる間にファルトは自分が買った情報を含めた全ての支払いを済ませていた。それにアクエリアが気付いたのが店を出てすぐ。それから今まで何十回と同じ言葉を聞かされ、ファルトは辟易していた。ファルトとしては、己の従者が持つ物に主である自分が金を払うのは当然のことであり、アクエリアから礼を言われる謂れはないのである。
「申し訳ないと思うなら」
再び何かを言おうとした空気を察して、ファルトがそれを遮る。発する言葉を失ったアクエリアが顔をファルトに向けたままその開かれた口を閉じた。
「そう思うなら実践で返してみろ。そちらのほうがずっと役に立つ」
後ろに続くアクエリアに視線を流しながら告げる。彼女の表情にハッとした色が見えたのを確認して再び顔を正面に向けた。この状態ならもう同じ言葉を繰り返されることはないだろう。
アクエリアの手綱を握る手にきゅっと力が篭る。それに合わせて、魔法力の増強具として買い与えた腕輪が揺れる。
「ハイッ」
ファルトの言葉を受け、アクエリアは強く意思の籠もった返事を返した。
今回はちょっと(だいぶ?)短め。
中継ぎ的な感じです。
ファルトンは魔法力増強具は持ってません。
「そんなもの必要ない」だそうですよ、奥さん。
章先頭へ
前の話へ
次の話へ
次の章へ