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Land Traveler - 第4章 - 3話

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 それはアクエリアにとって酷く長い一瞬だった。
 振り下ろされる凶器を気にした様子もなくファルトは一点を見つめたまま動かない。襲い掛かるモンスターの凶器がファルトの頭上に影を落とす。
 その時、ファルトの瞳に強い光が走った。
「壊」
 その言葉と同時に右手に携えた光を、地面に叩きつけるように振り下ろす。その場所を中心に風が沸き起こり、ファルトの髪を一瞬だけ舞い上がらせた。するとどうしたことだろうか、その風が伝わるように、もしくは彼を中心に波紋が広がるようにモンスターが次々に倒れていく。ついにはそこにいた全てのモンスターが地に伏し、一体も起き上がる気配を見せない。あたり一面をザッと見渡し、漏れがないことを確認するとファルトはようやく立ち上がった。上空を見上げる。初めに現れた二人を探すが、いつの間に逃げたのか、どこを見回しても二人の影すら見つけることはできなかった。

「逃げたか……」
 レイラが魔法陣を解くと外へ出られるようになったレオマイルも辺りを見渡してファルトにそう声を掛ける。同じように辺りの気配に気を配っていたファルトが「あぁ」と短く答えた。
「お怪我はありませんか!?」
 レオマイルを押し退ける勢いでアクエリアが慌ててファルトに詰め寄る。見た限りではファルトに怪我は見受けられない。
「大丈夫だ」
 当のファルトも短くそう答え、寄ってくるアクエリアを止める。
「しっかし…」
 その場の空気を壊すように、能天気とも言えるほど明るい声が発せられる。声のほうに視線を向けると、両手を腰に当てて辺り一面を見回すレオマイルがいた。
「久しぶりに見たな、あの技」
 目線だけをファルトに向けたレオマイルは面白そうに口元を歪める。レオマイルのその言葉にアクエリアがハッとした表情でファルト視線を戻す。
「あの魔法は一体…?」
 ファルトと同じように魔法を扱うアクエリアでさえ、先ほどファルトが使った魔法は初めて見たものだった。たった一瞬で、あれほどいた敵を一掃してしまうほどの威力のある魔法。
「ああ、あれ?消滅魔法だ。たぶん、一番強力な」
 アクエリアの質問に答えたのは、ファルトではなく、そばにいたレオマイルだった。ファルトは割り込んだレオマイルに気にした様子もなく放置していた荷物を手にしている。
「消滅魔法…。あれが…?」
 呆然とレオマイルの言葉を繰り返した。無論、アクエリアとて消滅魔法のことは知っているし、数回ではあるが使ったこともある。しかし、先ほどのものに似た物は彼女の記憶の中には存在しなかった。あのような強力なものが存在していたのかと驚く。そんなアクエリアに、レオマイルはクス、と笑みをこぼすと先ほどの自分の言葉に付け加えた。
「知らなくて当然だよ。あれ、ほとんどファルト独自のモンだから」
「え?」
 レオマイルの言葉の真意が掴みきれずに訊き返す。魔法というものは、その上達の有無や出来不出来に関わらず全ての者が全ての魔法を習うことができる。そのため、本来ならば誰か一人だけが扱える魔法というのは存在しないはずである。
「そ。元々あった消滅魔法にファルトが勝手に手を加えたヤツだから」
 サラッと言われた言葉にアクエリアは目を丸くさせて驚く。
 かなり歳のいった熟練者が新たな魔法を編み出すという話はごく稀に聞くことがある。それを、まだ歳の若いファルトがやってのけたというのか。アクエリアにはそれがどうしても信じられなかった。
「コイツ、昔から面倒なこととかすんげえ嫌いだからさ、少しでも楽しようってガキん頃にこんなもんつくってんの」
「もう良いだろう。行くぞ」
 これ以上話をさせたくないのか、ファルトが口を挟む。ニシシ、と声が聞こえそうな表情をしていたレオマイルはしかたなく肩を竦めると既に歩き出したファルトのあとに続く。身を隠す様子もない二人にギョッと目を剥いた。
「見つかってしまいます!」
「大~丈夫大丈夫。見つかっても襲われないから」
 手をヒラヒラと振って呑気に言われたアクエリアは慌ててついてきたレイラと顔を見合わせて首を傾げる。
「さっきの魔法、実はオプションが付いててね。しばらくは敵が出てきても消滅するようになってんだ」
 便利だろ、と片目を瞑ってみせるレオマイルにレイラもアクエリアもぽかんと口を開けたまま立ち尽くしてしまった。そんなすごい魔法を子供の頃に創ってしまったファルトの末恐ろしいほどの才能に二人は感銘を受けるほかなかった。



って事で取り敢えず戦闘シーン終わりました。
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