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Land Traveler - 第1章 - 21話

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「おい、余興は終わったぞ。仕事に戻れ」
 辺り一帯に響いたレオと呼ばれた男の声に、呆気に取られていた観客が我に返ったように持ち場に戻る。その口々では先程の二人の戦いについて語られており、時には「ところであれは誰?」とファルトを興味深そうに覗く者もいた。
 去っていく街の者達を掻き分けるようにエリスがファルトに駆け寄る。
「あのっ、大丈夫ですか?お怪我は…?」
 ファルトの剣を両手で大事そうに抱えたまま彼の全身を見回すエリスに、短く「平気だ」と告げ、その手に握られた剣を受け取った。
「酷いねぇ。怪我してんの俺なのに」
 そんな二人の様子を少し離れた所で見ていたレオは、笑いながら地面に突き刺した剣を鞘に収め、落ち着き払った様子で近づいてきた部下に渡した。怪我をしているとは言ったがそれほど深くないらしく、本人はさして気に留めた様子もなく、彼の部下も無言で剣を受け取るだけで、怪我の具合を確かめることすらしない。その少し厭きれたような表情からするとよくある事なのだろう。一方酷いと指摘されたエリスは、慌ててレオの傷を診ようとするがファルトが一言「必要ない」と言われ、戸惑ったように立ち止まりファルトとレオを交互に見遣る。そのファルトの言い草に、レオは少し頭を抱えるようにして片手を額に当てた。
「…ほんっと相変わらずだな……。それよりお前、いつの間にこんな伴侶を…」
「違う」
 気を持ち直したレオが言い終わらないうちに即答する。その反応に詰まらなそうな顔をして「冗談きかねぇ奴」と言った後笑った。
「あの…ファルト様、これは一体…?」
 未だに状況をきちんと理解できていないエリスは、ファルトに説明を求める視線を送る。それに気付いたファルトはレオを指して言った。
「この国の第六皇子のレオマイルだ。」
 ファルトのその紹介を待って、レオマイルがエリスに礼をして、恭しくその右手を取る。
「ウィルディス国第六皇子、レオマイル・L・ウィルディスと申します。以後、お見知りおきを」
 手に取ったエリスの手の甲に唇を寄せる。慣れていないその行為に、エリスは顔を赤くして戸惑い、ファルトに助けを求めた。視線を向けられたファルトの口からは溜息が漏れた。
「いい加減、見境なく女性に愛想を振りまくのは止めたらどうだ?」
 呆れたようなファルトの言葉に心外、とでも言うような顔をしてエリスの手を離し、レオマイルはファルトを見た。手を離してもらったエリスは心底ほっとした顔をする。
「何を言う、女性に敬意を払うのは当然のことだろう」
 胸を張って言うその態度に、ファルトは再び盛大に溜息を付く。レオの後ろに控えた従者も溜め息こそ出さないが呆れたようにレオを見ていた。そんな二人などお構いなしに、レオマイルは話を進める。
「こんな所で立ち話もなんだ。城に来い。もてなしてやる」
 言うが早いか、レオマイルはファルトを引き摺るように城に向かって足を進める。それと同時に従者に二言三言指示を出す。エリスは成す術もなく、小走りになってそれに付いて行った。
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