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Land Traveler - 第1章 - 18話

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 森で野宿をした翌日の昼過ぎに二人は街に辿り着いた。その街よりも手前にもいくつか村や他の町があったが、何か用事でもあるのかファルトは飛竜たちに少し無理をさせた。その飛竜たちは街に着いて早々に獣舎に預け、徒歩で街を巡っていた。

 大国ウィルディス、その王都ハーリット、そこが今二人のいる都市の名である。周辺の国では太刀打ちできないほどの豊かな領土と富と力を持った巨大な国であり、その王都に行けば手に入らないものなどないとまで言われている都市である。その分迷いやすいと言う難点があったがファルトはここを熟知しているのか、スタスタと歩みを進め、次々と露店や店を廻って必要なものを物色していく。時にエリスも品物を手に取り必要とあらば買っていた。

「ファルト様」
 露店で果物を見ていた時、「そう言えば」と何かを思い出したようにエリスが声をかけた。小ぶりのりんごを手にしていた彼はエリスを一度横目で見ると店の者にりんごをいくつか袋に入れてもらうよう頼み、軽く話を聞く体制を整える。「なんだ?」とでも言いそうな表情を見てエリスが口を開いた。
「昨日の話で少し気になった点があったのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「昨日…、ああ、夜のことか」
「ハイ」
 何かあったか、と軽く思い巡らせ、すぐに夜に話したことを思い出す。同時に話の後半を半ば無理矢理終わらせたことも思い出し、少し苦い気持ちになる。代金を払い品物を受け取る間考えを巡らせ、「答えられることならな」と予め条件をつけて先を促す事で昨日の続きを追求できないよう釘を刺す。そのまま歩き出すと、エリスは彼の言葉に表情一つ変えることなく頷きファルトの隣に並ぶように歩き出した。
「トロルの出所は誰もわからないのですか?それさえわかればそこを潰してしまえばそれで済むと思うのですが」
 大元さえわかってしまえば、襲われるより先にそこを攻撃してしまえばこれ以上被害を出すことはない。今まで見てきた廃墟にはほぼ魔法陣が残されており、それらから何か掴めるのでは、そしてファルトはそれを探すためにわざわざ廃墟を訪れていたのではないか、それがエリスが一夜明けて考え付いたことだった。
 その言葉を聞き、ファルトがほぅ、と言ったように少し目を見開く。昨日の今日にしてそこまで考え至ったことに内心驚いているようだった。
「何処だと思う?」
「え?」
「お前の言うトロルの出所だ。ここに来るまでに見たもので推測できる範囲でいい、言ってみろ」
 少し試すように、意地の悪い笑みを浮かべてエリスを見る。対するエリスは驚きと戸惑いで焦るばかりだ。
「そんな、そもそも私は魔法を使えませんし、アクエリアも魔法を使うとはいえ魔法陣にはあまり詳しくありません。」
「別に正確な出所を当てろと言ってるわけではないだろう。お前なりの考えを言えばいいだけだ」
 口調は淡々としているが無表情ながらも口角が僅かに上がっている。どうにか諦めてもらうようと口を開きかけたが、逃げることを許さないファルトの様子にぐうと言葉を詰まらせた。そのまま観念して必死に考えをめぐらす様をファルトは興味深そうに、そして面白そうに眺めていた。




「はっきりとは言えませんが…」
 たっぷりと時間を使った後に前置いたその言葉に再びエリスに視線を向けられる。既に先ほどの場所からは遠く離れ、露店が立ち並ぶ通りから少し離れたところで遅めの昼食を取ろうとしていたところだった。二人の元にやってきた給仕に適当に二人分の料理を頼むと給仕は厨房にまで届くように大声で注文を伝えながら戻っていく。遅めと言ってもそれなりに人がいてざわついている店で、それがきちんと伝わったかは疑問だった。
「で」
 元気よく去っていった給仕を見送ってエリスに先を促した。前置きを言った割りに中々続きを話そうとしない。心情がわかるだけに苛立ちはしなかったが焦らされるつもりもなかった。続きを求めた彼の一言に、言いかけたきり視線を下ろし戸惑っていたエリスが覚悟を決めたように息を吸い込んだ。
「国や地域などはっきりとしたところまではわかりませんが、ここよりも東だとは思います」
 ここに来るまでにいくつか廃墟を見ましたがその数が、感覚的ですがだんだんと増えてきたように感じます。あと、少し規模も大きくなっている気がします。それに、コレクターに捕らえられていた時に、随分と前のことになりますが、もっと東の国を訪れました。その国にも同じような形で壊された村がありました。それも考慮すると東の、それも端のほうに出所があるように思います。

「…如何でしょうか……?」
 ひとしきり己の考えを述べると答えを伺うように上目使い気味にファルトに視線を向ける。途中から頬杖を付いてただ黙って聞いていたファルトが腕を組み少し考える素振りを見せた。それを固唾を呑んで見守る。
「なかなかいい線だな」
 ようやく口を開いたファルトが告げたその言葉にエリスがホッと胸を撫で下ろす。タイミングを計ったように給仕が二人の食事を持ってきた。早速と手をつけたファルトに倣おうとしたところで本来の質問を思い出した。
「それで、実際出所はわかっていないのですか?」
 質問に質問で返されてしまったが本来はそれを聞きたかったのだ。エリスの回答の答えにも繋がる。ファルトも「答えられる範囲で」と条件は付けたが答えると言った。表情を伺うが機嫌を損ねた様子も見られない。

「今までの様子だけでそこまで推測するとは中々だな」
 食事と一緒に置かれたエールを一口含んだ後満足そうにそう切り出した。エリスの質問の答えとは違う気がするが、その返事から先ほどの答えがファルトにとって期待以上のものであったのだろう。よく見るとその口角が僅かながら上がっているようだった。
「端的に言ってしまえばどの国も出所は知っている。ただ誰もその国に辿り着けないだけだ」
 思ってもみなかった言葉にえ、とエリスの動きが止まる。大国のウィルディスでさえ手続きを踏めば誰でも入ることができるのに、誰一人辿り着くことすらできないとはどういうことなのか。そもそも人の往来がない国など国として存在できるのかすら疑問に思ってしまう。エリスの知る限りそんな国はなかったはずである。
「その国とは…?」
「デコルヴィザード」
 国名を聞けば何か思い出すかとの質問にさらりと、事務的にも感じられる口調で即答された。その名を口の中で反芻する。どこか聞き覚えがある気がするが、それが国なのか他の何かなのか、それともただの勘違いなのか判別がつかなかった。
「ウィズデリア島と言えばわかるか?」
 必死に記憶を辿る様子を見てファルトが助け舟を出す。その単語に思い出したのか、エリスはハッと顔を上げるが、すぐに戸惑ったような表情を見せた。

 大陸の東の果ての島ウィズデリア。かつては大陸と陸続きだったらしいがいつの頃にか分断されたと聞く。それだけなら良かったがいつしか島全体が真っ黒な雲に覆われ、天候も荒れるようになり往来することが叶わなくなった。そんな島に、大陸と分断される前に建てられた国がデコルヴィザードと呼ばれていた、しかし。
「あの国はもう滅んだはずでは?」
 あの島を覆う天候とその地域にいたモンスターの数、そして国がまだ未発達で人口も多くなかったことを鑑みて国が滅んだと国際協議が決定したのはファルトたちが生まれるよりももっと前の話だ。エリスが聞き覚えがあったのも歴史の一つとして師から教わったからだった。そんな国が今更、しかもトロルの襲撃と言う物騒な話で何故出てくるのか。
「表向きは、な。あの国は統治制度や体制を整え王を淡々と只管待ち続けた」
「王を、待つ…?」
「あの国は王を一族で引き継がない。いや、かつては引き継いだかもしれないがいつの頃からか相応しい者を見つけ出し、その者を王にするようにした」
 食事を摂りながら淡々と語られるそれにもはや呆然とするしかなかった。ファルトに促されて出されたものに手を付けてはいるが味などわかったものではない。色々と問いたいことはあるのだが、一体どれから訊けばいいのか。
「あの国は何十、いや何百年もの間王を持たなかった。だが十数年前、ついに相応しい者が現れその頂上に君臨した。その結果が今の世界の状況だ」
 つまり、新たにデコルヴィザードの王となった者がトロルたちを使って大陸の国々を襲っていると言う。

「なぜそんな国が今になって大陸を襲いに来るのですか?」
 トロルの出所はわかったがその意図がわからない。長い間王が不在の状態でどうやって統治体制を維持したのかなども気になるが、ようやく現れた王がなぜ大陸に対して不満を抱くのか。それとも何か目的でもあるのか。
「知らん」
 今までの緊迫感を真っ二つにするほどのばっさりとした一言に少し前に乗り出していたエリスの肩ががくりと落ちた。少し非難するようにファルトを見るが、意に介した素振りもなく涼しい表情のままである。
「会った事もないような奴の考えなど知るか」
 聞けば最もな話だが、ここまで事情を知っているのならそのくらい知っていてもよさそうなものだ。勿論、彼の場合なら知っていても答えたくない、と言うことも十分考えられるが。


「それよりも」
 今までと雰囲気を一変するような口調に、これ以上は答えてもらえないだろうと気持ちを持ち直して改めてファルトを見る。彼の視線はエリスの手前で下に落ちていた。
「いつまで食事をしているつもりだ。置いていくぞ」
 改めて二人の手前を見比べてみると、エリスの手前の皿はあまり量が減っていないが、ファルトの手前は既に空だった。エリスが驚いてばかりで食事にまで気が回らなかったのに対し、ファルトは説明をしながらもマナーに反しない程度に黙々と手を動かしていた結果だった。その事実に、慌てて食事に手をつける。ファルトはその様子に呆れたように溜め息を吐くだけだった。

 口に含んだものは、やはり冷めてしまっていた。






「おい、そこの二人」
 食事を終え再び街中の露天を巡っていると、突如後ろからそう二人を呼び止める声があった。



久しぶりの更新ごめんなさい。。。 なんだかエリスは驚いてばっかりです。 彼女もちゃんと学識はあるはず何だけどなぁ… 実はウィズデリアが島になる前後の話もある程度妄想済。 徐々に沈没とかじゃないんでそりゃ当時は大騒ぎですよ。 中世のフランスあたりだったらシャンソン歌手がこぞって歌にしたであろう悲劇とか。 あ、でも彼らの主流は不倫ネタか。←
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