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Land Traveler - 第1章 - 16話

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 王の間へと続く長い廊下を1匹の使い魔が酷く慌てた様子で走り抜けていった。その使い魔とすれ違った者たちの中には、何事かと使い魔の消えた先に顔を向ける者もいたが、殆どが我関せずといった態度で己の仕事を続けていた。

「陛下、陛下大変です!」
 ようやく辿り着いたその部屋の扉を断りもなく開けて中に飛び込む。玉座の傍に控える老人に咎められるが、そんな言葉など耳に入っていなかった。視線の先の玉座に座る人物が頬杖をついたままゆっくりと目を開け使い魔を視界に入れる。その真紅の瞳に促されるように使い魔は再び口を開いた。

「北西に調査に向かわせていたトロルどもが何者かに襲撃され壊滅しました!」
「…ああ、魔法陣すら律儀に全て破壊したな」
 その言葉に周りの空気がゆら、と揺らぐが、目の前の人物は眉一つ動かさない。しばしの間考えを巡らすように、ついた頬杖を口許に当てる。そして考えをまとめ、背もたれにゆったりと身体を預けると、短く名を呼ぶ。同じように短い返事と共に、柱の影からゆらりと人影が浮かんだ。

「このことに関しては暫くお前に全権を譲ろう。トロルの任務と今回の襲撃の調査を任せる。早急に調べて報告しろ」
 使い魔もモンスターも好きに使って構わん、と告げると人影の気力が俄然上がるのがわかる。

「御意」
 やはり短くそれだけ告げると、早々に気配を消し、部屋から退出していった。部屋の中央辺りにいた使い魔も連れて行ったのか、いつの間にかその姿が消えている。その素早い行動に可笑しそうに口許を歪めていると、傍に控えていた老人から声がかかった。
「奴を行かせる必要はなかったのでは?」
 酷く耳障りな声だった。老体特有のしわがれた音と地の決して高くはない音が不協和音を奏でる。それなのに嫌にはっきりとその声が耳にまとわりつく。だが、それにももう随分と慣れた。

「まぁ、暇そうだったからな」
 そう、それだけの理由。強いて言うなれば奴の戦闘以外の能力を測るためとでも言おうか。老人はその考えを知ってか、僅かに口角を上げると一礼して部屋から退出していった。

 室内にいた他の気配も消え、王一人だけとなる。傍らに置かれてあるテーブルからグラスを手にし、口許に寄せた。そのワインを見つめる真紅の瞳から考えは読み取れなかった。

 窓の外に目を向けると、そこに青空はなく、暗闇に雷鳴が轟いていた。



今思ったけど場面転換多すぎ?
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